「サバーチカ」黒い瞳 4K修復ロングバージョン 梨剥く侍さんの映画レビュー(感想・評価)
サバーチカ
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口からでまかせの嘘を吐いて道化のように浮世を流してきた男ロマーノが、ふと船上で出会ったロシア人に身の上話を語り始める…。この入れ子構造を巧みに生かした脚本が見事というほかない。チェーホフのささやかな短篇からこの壮大な物語を紡ぎ出した手業は賞賛に値する。
小心で小鳥のように純真なアンナの造形も魅力的だ。郷里でロマーノに再会した時のうろたえぶりが尋常でない。それだけに彼女が一生に一度の決断をしたのに、またしても流れにまかせて約束を違えたロマーノの罪はあまりにも深く重い。
最後にロマーノは自らの人生の来し方に悔恨の情に駆られ、慟哭する。
映画はそれに追い討ちをかけるように残酷なラストを用意する。
25分追加したロングヴァージョンとのことだが、どの部分が追加されたのかはよくわからなかった。ただ、ラストは従来の方が余韻があって良かった。このあとにどれだけの修羅場が訪れることか(それは映さない)。美しく恐ろしいラストシーンだ。
ロマーノが馬車の荷台でまどろみながらロシアの朝霧の中を揺られて行く画面に、包み込むように子守唄が流れるシーンはため息が出るほど素晴らしい。
ニキータ・ミハルコフの、いつまでも心の隅にとっておきたい名品である。
(彼は今のロシアの現状をどう思っているのだろうか?)
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