劇場公開日 2025年6月20日

「【”先生や大人が言う事なんて全部間違っている。ゴールなんて目指さなくていい。”と教頭先生は最後の挨拶で生徒達に言った。今作は全国のお堅い教育委員会に喧嘩を吹っ掛ける如き、教育ヒューマンドラマである。】」中山教頭の人生テスト NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 【”先生や大人が言う事なんて全部間違っている。ゴールなんて目指さなくていい。”と教頭先生は最後の挨拶で生徒達に言った。今作は全国のお堅い教育委員会に喧嘩を吹っ掛ける如き、教育ヒューマンドラマである。】

2025年6月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

幸せ

■山梨県の小学校で教頭を務める中山(渋川清彦)は、教育生活30年のベテラン。昔は熱血教師だったが数年前に、自分が授業中に妻が事故に遭い、それでも授業を止めなかったために死に目に会えず、中学生の娘に責められ自分も後悔を抱いて生きている。
 娘の進学を控え、一応校長昇進試験にも挑戦するが、ナカナカ合格できない。
 校内では、近隣のクレーム爺さんの対応や電球の交換など雑用担当だが、いつも笑顔を浮かべている。
 そんな時に、校長に逆らった女性教師の代わりに来たマアマアパワハラの男性教師も、学校に来なくなり、急遽中山は教頭兼、久しぶりの担任になる。だが、そのクラスは表面上は問題が無く見えたが、様々な問題を抱えるクラスであった。

◆感想<Caution!内容に触れています。>

・いつものように、フライヤーをロクに読まずに観に行ったので、”善良な教頭先生が、問題ある生徒達を矯正させ、良かった、良かったじゃないの、”などと思いながら鑑賞開始。

・だーが、この映画が色んな意味で凄かった。
 笑顔一切なしの男性教師の生徒に対するパワハラの接し方に始まり、生徒間でも関係性が複雑に入り組み、モンスターペアレンツは出て来るわで、そこを教頭が”ビシッと”締めるかと思いきや、教頭もグダグダなのである。
 で、思ったのだが”あ、この映画は先生は万能の神などではなくって、普通の過ちを犯す人間であり、教頭先生の成長物語だな。”と思ったのである。

・スンゴイ、優しい笑顔の女の子が、モンスター級のサイコ苛めっ子であったり、不登校の女子や、苛められている男子と、苛めっ子の女子の関係など、大人社会もビックリであるが、少し前に見た学校のドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会」を思い出し、”この映画は、そのブラックバージョンでもあるな。”と思いながら観賞を続行する。

・中山教頭は教育長(風間杜夫)で、女性校長(石田えり)を激しく糾弾する夜の酒の場では(というか、夜の酒の場、ムッチャ多し。教育長、仕事しろ、仕事!)へこへこ、教育長のいう事を聞き、校長の前では自分の意見を言い出せない。
 果ては、校長が下した不登校女子に対する処分の厳しさを糾弾される場で、自分の昇進を考え、校長の擁護に回る始末である。

・だが、教頭はそんな日々を送る中で、少しづつ、生徒達に望むことを学んでいくのである。この辺りの教頭を演じた名俳優渋川清彦の、媚びたような笑顔を浮かべながら生きる姿は絶品である。

・中山教頭は更に、校長昇進試験でカンニングまでするのである。”あーあ。この映画、全国の教育委員会に更に喧嘩を売っているよ。”と思いつつ、試験後に若い試験官から呼び止められた教頭は、存外の”この間の会見での毅然とした態度が立派でした!”などと言われる握手を求められるも、当然それに応えずに、悄然とした顔で、会場を去るのである。

・そして、或る晩。中山の携帯に電話が入る。それは、彼が校長の試験に不合格になった連絡だった。だが、彼はそれを聞いて、何故か笑顔になるのである。

・だーが、その後、ナント女性校長の使い込み(たった、8万円。せこいなあ。けれども、彼女には日の当たらない女子重量挙げ選手を指導する立場にもあったのである。)が発覚し、繰り上げ式に中山は工長になるのである。

<ラスト、学期末の挨拶で中山が生徒達に、少し涙を浮かべて言った言葉が良かったなあ。彼はこう言ったのである。
 ”先生や大人がこうしなさいって言う事なんて、全部間違っている。ゴールなんて目指さなくていい。”
 そして、その言葉の後に駆け寄って来たモンスター級のサイコ苛めっ子の女の子が心配そうに”何か分かったんですか。”と言った時に、中山が彼女に向けた笑みなき真面目な眼が良かったのである。
 今作は、一人の過ちの多い教頭先生が、様々な経験をする中で、生徒と共に成長し、真の教育者になって行く姿を描いた作品なのである。>

<2025年6月29日 刈谷日劇にて鑑賞>

NOBU