「アナちゃんの“キレッキレのアクション”をひたすら愛でる!」バレリーナ The World of John Wick いたりきたりさんの映画レビュー(感想・評価)
アナちゃんの“キレッキレのアクション”をひたすら愛でる!
今が旬のハリウッド・スター、アナ・デ・アルマスによる“キレッキレのアクション”をひたすら愛でる——本作の魅力はこの一点に尽きる。
本作が帯びるイメージは、彼女がアクションの片鱗を垣間見せていた『グレイマン』(ルッソ兄弟監督、2022)の延長線上にある。もっとも、本作で彼女が「組織での初仕事」として披露するセクシーなアクションシーンなどは、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』で彼女が短くも鮮烈な印象を残した出演場面を想起させるけれど。
団子の串刺し式に見せるアクションシーンの量・質が、本作と地続きである『ジョン・ウィック』シリーズを踏襲しているのはもちろんだが、そのノリはどこか近年の韓国アクション映画をも思わせる。たとえば、硬質なノワール映画『ただ悪より救いたまえ』やコメディ要素を加えた刑事アクションもの『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』といったファン・ジョンミン主演作2本を思い浮べてみるとよい。
一人VS多数で繰り広げられる肉弾戦。やたらとトンカチで応戦したり、スケート靴のブレードでメッタ斬りにしたり、手榴弾を相手の口に突っ込んで木っ端みじんの肉片にしたり…と激痛が走るようなグロいショットの数々も、韓国ノワールの系列だと思えばスンナリ納得がいく。そのノリでいくと、火炎放射器で次々と人間を丸焼きにする残酷描写だって許容できる(苦笑)。ただし武器としての火炎放射器はアクション全体のキレやスピード感を減じているようにも見えるが。
その傍ら、鍋やフライパンでひっぱたく、あるいはお皿を投げつけ合う、といった戦いっぷりはスラップスティックに近づき、どこかユーモラスだ(そういえば劇中、キートン作品もチラ見せしていたね)。
また、彼女のガンアクション(ガンフー)もなかなか堂に入ったもので、安心して見ていられる。唯一の不満は、日本刀の立ち回りがほぼ「突き(刺突)」ひとすじで、『レッド・サン』のミフネみたいだったことくらいか(しかも世界のミフネほど腰が入っていないから、刀を軽くあてているようにしか見えない)。
そんな本作だが、ストーリーの方はかなり粗っぽさが目につく。たとえば、なぜ暗殺者教団は、幼い頃の主人公や中盤以降出てくる少女にこだわるの?(教団にとってリトル・ブッダみたいなもの?)とか、主人公の父親は娘を庇って殺されたのに、後年おなじような騒動を起こしたノーマン・リーダスの方は…とか。あるいは、再会後のお姉さんあっけなさすぎるよとか、キアヌ・リーブスはやけに素早くニューヨークからオーストリアの山深き村へ移動できたねとか。まあ、いちいち挙げていったらキリがない。
またもや引き合いに出してすまないが、『ただ悪より救いたまえ』のように濃密な物語をつくれないなら、腹を括って徹頭徹尾アクションで魅せる方向へ振り切ればヨカッタのに、とさえ思う。
ともかく、アクションシーン以外でのレン・ワイズマン監督の演出は終始もたつき気味で、観客に考えを巡らせる隙を与えてしまう。なんでも一説によると当初、本作の初号試写を観たプロデューサーのチャド・スタエルスキが、『ジョン・ウィック』シリーズに傷がつくことを恐れ、本作に大幅な再撮影/再編集を加えたとかなんとか…。あるいは、そんなことも完成作に影響しているのかもしれない。
ついでに告白(?)しておくと、自分の顔認知能力が低いせいか、「暗殺者教団」の首領に扮したガブリエル・バーンと「コンチネンタル・ホテル・ニューヨーク」の支配人役を演じるイアン・マクシェーン、この二人が判別しづらい。顔だけでなく、たたずまいもどこか似かよっているのだ。そのせいで映画冒頭に前者が登場した時は、すでにシリーズでお馴染みである後者の若かりし日かと早合点。さらに次のシークエンスで後者本人が現れると、今度は「そうか、ふたりは兄弟なんだな」と勘ぐったほどだ(笑)。
それはさておき、アナ・デ・アルマスと同じ1988年生まれのハリウッドのトップ女優というと、エマ・ストーン、アリシア・ヴィキャンデル、ヴァネッサ・カービーなどが思い浮かぶ。1989年生まれにまで広げると、エリザベス・オルセン、ブリー・ラーソン、ダコタ・ジョンソンらも加えることができるだろう。
しかし、同世代の彼女らが文字どおり体を張って主演を務めたアクション映画となると、ヴィキャンデル主演の『トゥームレイダー ファースト・ミッション』を除き、ちょっと思いつかない。女性主演のアクション作品が生まれにくいハリウッドのそんな現状を鑑みると、アナ・デ・アルマスが本作でやり抜いたことの「意味合い」もひと味違ってくるし、「アクションこそすべて」と割り切って眼福に身をゆだねれば、十分にお釣りがくるのではないか。
以上、試写会にて鑑賞。
P.S.アナちゃんを瞬時に組み伏せ、圧倒的な技量差を見せつけるキアヌ=ジョン・ウィックは、ほんま天下無双や。