「リアルな映像と非リアルなストーリーの共存」映画「F1(R) エフワン」 臥龍さんの映画レビュー(感想・評価)
リアルな映像と非リアルなストーリーの共存
1992年のモナコGP以来、F1にハマって鈴鹿にもほぼ毎年通っているF1ファンです。
監修を担当した現役ドライバーのルイス・ハミルトンがいうように、この映画は『リアリズムとストーリー性のバランスを考えたハリウッド映画』という表現がしっくりきます。
映画はFIAの全面協力のもと、ラスベガスやアブダビ、イタリアといった実際のグランプリウィークを利用して撮影が行なわれ、実在のチームやドライバーも出演しています。
ただ、マシンに関してはF1ではなく、下位カテゴリーであるF2のマシンをF1風に改造したものが撮影に使われています。
ストーリーは1990年のマーティン・ドネリーの事故や2008年のクラッシュゲート事件など、実際にあった出来事から着想を得てはいますが、完全にフィクションです。
自信満々の主人公が何度も挫折を味わいながら、最後は悲願のF1初優勝を遂げるという、いかにもハリウッドらしい展開で、ハラハラしながらもなんとなく安心感を持って先を楽しめる。そんな構成になっています。
IMAXで観たのですが、トップガンの製作陣が関わっているだけあって、映像・音響ともに大迫力で没入感があり、普段の中継では見られない新鮮なアングルからの走行映像など、ファンとしては貴重な映像体験を満喫できました。
さらにピット内の様子やドライバーの控室、ミーティングでのやり取りといった、普段目にすることのない舞台裏を覗けるなど、コアなファンが楽しめる要素も多かったように思います。
ストーリー的には『いやぁ、それはさすがに…』と苦笑いしてしまうシーンも多々あって、ハリウッド的な脚色によるご都合主義を感じる展開ではあります。ただ、これはドキュメンタリー映画ではないので、正確であることより純粋にエンタメとして楽しめばいいのではないかと個人的には思います。
現代F1はあらゆる情報がデータ化され、オペレーションもシステマティックで、人間的な要素を極力排除し、高度なシミュレーション技術により想定外が起こりにくくなっています。
また、衝突事故やルール違反は年々厳格化され、なにかあればすぐにインシデントとして走行データ(アクセル、ブレーキ、ハンドル操作など)の提出を求められ、スチュワード(審判団)により詳細に解析されて、悪質性があると判断されれば出場停止など厳しい処分が科されます。
そんな現実のF1をそのまま再現するより、リアルさを残しつつも映画に不可欠な娯楽性との両立を考慮し、ギリギリの妥協点を探った結果、こういう形に落ち着いたのだろうなと思います。なので、コアなF1ファンの中には違和感を持つ方もいらっしゃると思います。
監修を担当したハミルトンも、F1ドライバーを招いた上映会で彼らの反応をだいぶ気にしていたようですし、その様子からも現実とエンタメのバランスに相当苦慮していたことが伺えます。
F1をよく知らない人は、まだ人間臭さを多く残す古き良き時代のF1を楽しみ、コアなファンは、大迫力の映像や音響に浸りながら、エンタメとしてライトにストーリーを楽しむ。そんな映画だったのではないかと思います。
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