「現代版『禁じられた遊び』」ふつうの子ども Dickさんの映画レビュー(感想・評価)
現代版『禁じられた遊び』
1.はじめに呉美保監督との相性:
1977年三重県伊賀市生れの呉美保監督の長編劇場映画は、本作を含め5本が劇場公開されている。内、下記①を除く全作をリアルタイムで観ていて、マイ評点は下記の通り。全体の相性は「上~中」。
①2006年 酒井家のしあわせ 2006.12公開 ★未鑑賞
②2010年 オカンの嫁入り ★2010.09鑑賞60点
③2014年 そこのみにて光輝く ★2014.05鑑賞 80点
④2015年 きみはいい子 ★2015.06鑑賞 100点
⑤2024年 ぼくが生きてる、ふたつの世界 ★2024.09鑑賞70点
⑥2025年 ふつうの子ども ★2025.09鑑賞95点
2.マイレビュー
❶相性:上。
★現代版『禁じられた遊び』
➋時代:現代。
❸舞台:特定されないが関東の地方都市。ロケ地は国立市、湘南学園小学校(藤沢市)。
❹主な登場人物
①上田唯士(ゆいし)(嶋田鉄太、10歳):10才の小学4年生。両親と三人家族。ふつうの男の子。最近、同じクラスの心愛が気になって、彼女に近づこうと頑張る。環境3人組を結成。
②三宅心愛(ここあ)(瑠璃、11歳):10才の小学4年生。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさん(2003生れ。16歳の時、国連気候行動サミットで演説。)に感化を受け、カーボンニュートラル等の環境問題に対する強い危機意識を持ち、大人にも臆せず声を挙げる。心愛は陽斗に惹かれている。環境3人組を結成。
③橋本陽斗(はると)(味元耀大、12歳):10才の小学4年生。クラスのちょっぴり問題児のお調子者。環境3人組を結成。
④浅井裕介(風間俊介、41歳):クラスの担任教師。熱心だが、子供たちの本音を正面から受け止められない。
⑤上田恵子(蒼井優、39歳):唯士の母。息子を信じてよく会話するが、本音はつかめていない。
⑥三宅冬(瀧内公美、35歳):心愛の母。独善的な合理主義者。娘に寄り添うことが出来ない。
⑦その他:陽斗の母(浅野千鶴)、唯士の父(少路勇介)、唯士の遊び友だち(大熊大貴)、唯士に恋心を抱くクラスメイト(長峰くみ)。校長先生(金谷真由美)等。
❺概要
①唯士は、友だちと昆虫を捕まえるのが楽しみな普通の子どもだった。
②学校で、心愛の環境問題の作文発表を聞いた唯士は、恋に落ち、環境の勉強をして心愛にアプローチする。
③でも、心愛の意中の人は、陽斗だった。
④心愛、唯士、陽斗の3人は、環境グループのメンバーとなり、集まって相談し、工場排水やゴミ問題について調べ、周辺へのアクションを開始する。
⑤最初は、環境に悪いとされる肉を食べないことから始め、町中に環境に関するビラを貼ったり、肉屋に向けてロケット花火を飛ばしたりとエスカレートしていく。そして、とうとう牧場の鍵を壊して、酪農の牛を逃がして、被害が出る事件になってしまう。
⑥校長先生は、全校生徒に事件の重要性を説明する。
⑦犯行が判明した3人の親が呼び出されて三者面談となる。そこで、親子の関係が分かってくる。3人の信頼関係に亀裂が生じる。
⑧子供たちの純粋な行動が、大人の社会のルールの中で危険な結果に繋がることになってしまったのだ。大人の社会に翻弄される子どもたちの姿がリアルに描かれていた。
⑨本作では明示されていないが、3人と保護者が何らかの処罰を受けることは間違いないと思われる。
❻考察とまとめ
①本作は、現代の環境問題を背景に、子どもたちの視点から世界をどのように見ているのかを描き出したドラマ。
②3人の環境活動は、大人が見過ごしている不都合な真実を暴き、SNSを通じて拡散される。大人たちは子供たちの行動を褒めるが、問題が大きくなると態度を変えていく。
③リーダーの心愛の環境意識は、純粋な正義感から始まったが、途中から世間の注目を浴びることに変わっていく。だから、犯罪に関わることも止めようとはしない。
④引きずられてしまう性格の唯士は、心愛への興味と、陽斗への対抗心のため、途中で止めることが出来ない。
⑤学校でも家でも安心できる居場所を得られない不安を解消するために始めた陽斗も、途中で止めることが出来ない。
⑥心愛の行動は、母親との歪な関係にあることが分かってくる。
⑦3人の中では、唯士だけが、親子の会話があるが、本音の対話は出来ていない。
⑧母親や父親、教師、校長。本作には色んな大人が登場する。彼らは子供たちが環境問題に関心を持ち行動をを起こしたことを知っても、理解しただけに留まっている。
⑨でも、実際に必要なのは、「大人の責任は何か?」、「解決のため、個人が出来ること、やらねばならぬことは何か?」等を一緒に考えていくことである。本作の大人たち全員に欠けていたことである。
⑩本作は、このことを子供たちの視線を通して訴えている。
⑪心愛、唯士、陽斗の3人は、今回の事件を通じて明らかに成長した。一方の大人たちは、今後責任ある行動
を取るようになるとは思えない。
★家庭でも、学校でも、会社・社会でも、必要なのは、上記⑨だと思う。
⑫本作を観ていて、子供の視線で描いた反戦映画の金字塔、ルネ・クレマンの『禁じられた遊び(1952)』を連想した。
★『禁じられた遊び』は、ドイツ軍の攻撃で戦争孤児になった5歳の少女と、10歳の農家の少年が、死んだ子犬等を埋葬して、立てる十字架を教会等から盗みだす話。歴史の残る傑作とは比べ物にならないが、子供たちの純真な行為が、大人社会では犯罪になるという意味で共通点がある。
⑬環境問題とは無関係だが、11才の男子2人と女子1人が、大人世界を翻弄するラブコメ『小さな恋のメロディ(1971英)』とも共通点がある。
★私には11歳の孫がいるので、本作を含むこれ等の作品が身近に感じられた。
