「How dare you!」ふつうの子ども かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
How dare you!
子どもたちの人間関係と日常をメインに、ありそうな問題をいくつも、フラットな視点でうまく詰め込んである構成が素晴らしい。
地球温暖化は待ったなしの喫緊の問題で、無関心な方がどうかしているんだが、日本人はほんとに危機意識が薄い。それどころか危機感を募らせる人たちを奇異の目で見たりする。
小学4年生の女の子・心愛は、それを真剣に考え、周囲の啓発を試みる。
クラスメイトはそんな彼女に引いて遠巻きにするが、彼女にハートを射抜かれた普通の男の子唯士は、彼女に好かれたい一心で温暖化について学び始める。子供らしく杜撰であからさまな作戦に笑ってしまうが、そこにクラスの問題児の陽人も加わり、3人だけの秘密結社ができる。心愛が陽人に魅かれているようで唯士は気が気ではない。
最初のうちは3人の子供らしい行動力を微笑ましく見ていたが、だんだん笑えなくなってくる。人様の家に勝手に入り込んで好き勝手し放題、ライバルの出現に対抗意識を燃やして行動がエスカレートする。ライバルとの競争とか自己顕示欲のほうに目的がずれていき、環境問題よりそっちが重要になって、テロリストもどきの行動に走る。その昔の過激派組織の成長過程のよう。
また、「牛肉を食べない」など、ひとつの象徴的な事柄をかたくなな教義にしてしまうところは、宗教のようでもある。
視野の狭い未熟な人たちの集団が陥りがちな、極端に走る傾向が描かれており、これを見せるところがすごい。
そして、How dare you! と、大人が子供から糾弾されているようだとも思いました。
心愛は、一番身近な大人である自分の母親のありさまから「大人全般」はこんなものだと思い込み、大人全般に絶望し怒りを抱えて、テレビで見た環境活動家の少女の言葉に同化するくらいの共感を覚えたんだろうとは思う。
でも、我々大人は無意識に、良くないなと分かっていることでも、あきらめつつ結果的に容認しているようなところがある。また、極力責任は人任せにしたい。
担任教師は、責任回避ファースト。子供に寄り添ったり深入りすることを放棄しているよう。なので無神経な発言も目立つ。「誰が最初に言い出したのか」は、関係者全員いるところで聞いたらダメなのでは。
とはいえ、そもそも、子どもたちの不始末に、何で教師が責任を問われるのか、子育ては家庭の責任ではないのか。先生が、持つべきでない責任を回避するのは当然だという気もする。そうでなくては自分自身を守れない。
3人の「犯行」がバレて学校に親が呼び出されるが集まるのは母親だけ。
陽人のところは父も来たが、完全部外者の体で下の子供の世話要員に徹している。
3家庭とも子育ての責任を母親のみに負わせて父親は不在か他人事のようにしか子育てに関わらない。
母親たちにはそれぞれ問題があるように見えるが、一緒くたではない。
唯士の母は頭でっかちかもしれないが、少なくとも将来を見据えて子供の幸せを願って試行錯誤している。他の二人の母は、自分に都合の良い子供像に沿ったありよう以外は認めない。大事なのは自分で、子供自身に良いようにとはまるで考えていない。それぞれの子供の態度に、それぞれの親の子育てが如実に表れていた。
牧場に謝りに行く途中で陽人が度々泣き崩れてしゃがみ込むのは、卑怯者な自分にやりきれなさが募ったからだろう。子供社会では「卑怯者」は何より嫌われる。アウトロー的でちょっとカッコいい雰囲気の「問題児」が「卑怯者」に大幅格下げで、今後の学校における自分の居心地を考えて絶望したかも。こういう子供にしたのは親であることは一目瞭然だ。
そして、心愛がかわいそうで胸が痛くなる。くやしさに涙をこぼす姿に、私も悔しさでいっぱいになった。生まれて10年も経っていない子供であるがゆえに視野が狭く考えは極端になりがちだが、オトナ相手に堂々と、ひるむことなく、理路整然と自分の主張を言えるのは大したものだ。「出る杭は打たれる」が激しい日本の社会、この子がつぶされることなく成長できるような世の中にするのも大人の役目じゃないだろうか。
大人たちが自分の責任を真面目に考えて、世の中が良くなるよう実行に移すことは、大人たちにとってもいいことなのだ。
唯士には、自己肯定感がすくすく育っているよう。親の愛情を疑わず安心して子供でいられる幸せな子供に見える。見かけはイケてないが、心愛とちゃんと言葉を交わして自然に人間関係を築ける力が備わっているよう。
親は、子供の人間形成に決定的に影響するのだとつくづく感じる。親ガチャは確かにあるのだ。
こんど本を貸してあげるね、とにっこり笑いあう心愛と唯士に、本来の子供らしさを見て微笑ましかったです。心愛は、あの修羅場でちゃんと言うべきことを言い、自分を好きだと言った唯士の気持ちがうれしかったと思う。
「大事件」を経験して、3人は、それぞれ葛藤し、成長の足掛かりにできたらいいなと思いました。
子役たちの演技が驚異的。自然でまるで演技なんかしていないよう。特になんかとぼけた普通の子どもの嶋田鉄太くんが素晴らしい。全員が天才なんじゃない!?
ムカつく大人たちを演じた俳優さんたちも好演。
特に担任ののらりくらりの風間俊介と、不快感ともにMAXな陽人の母(名前が分かりません)と心愛の母瀧内久美の、思わず「黙れ」と言いたくなるような嫌な奴演技が大変堂に入ってました。
そして、監督・呉美保、脚本・高田亮、恐るべし!
かばこさん、コメントありがとうございます。・_・
毎度のことながら、かばこさんのレビューは的確に作品のこと
に触れているなぁ と感服しております。
もっともっと、自分でも書きたいことが沢山あったのに、書いて
いる内にアタマからこぼれ落ちてしまうのが常のことで…。ふぅ
で、レビュータイトルの「 How dare you 」 ですが。
唯士に向けて心愛が発した笑顔のセリフ(音声なし)で
口の動きから「i love you」と言ったのかと思っていたのですが、
パンフその他を読んでみると「 How dare you 」 わぉ
自分には口唇読解の才能が無いと悟りつつ、その意味は?と
google翻訳センセイに尋ねたところ
「よくもそんなことができた」
一緒にやった環境活動のこと について言ったのか
自分を好きと言った、唯士自身に対して言ったのか
微笑みながらのセリフですからね。うん。意味深。
いきものがかりの子との唯士争奪が始まるのか…?
などと
この後を考えるだけでもしばらく楽しめそうです。
(長い返信でゴメンなさい)
コメントありがとうございます。今日読みました。子供と保護者、教師の姿と、それぞれに鋭い分析があり、参考になりました。本当に名演技の子供たちでしたが、本人たちは演技をしているという感覚がないのではないかと思いました。
コメントありがとうございます。
「虫」についてですが、我が家にある巨大漢和辞典によると、小動物の総称みたいな意味もあるようなので、カエルや蛇はおっけーじゃないでしょうか?「虫」は元々蛇を模した象形文字なんだそうです。そういわれてみれば、コブラが鎌首もたげているようにも見えますね。
コメントありがとうございます。
私は自分ではいたってふつうの子どもだったと思ってるのですが、小5/小6のときの担任とソリが合わず、異端児扱いされて反抗しまくってた経験があります。その教師は仕事の主眼点を、個々の子をリスペクトして子どもたちの個性を生かす、才能を伸ばすとかには置かず、クラスを統制する、秩序を維持する、あたりに置いているようでした(まあ大人になって振り返ってみると、その先生は少年時代に軍国教育を受けてきた世代の方だったので致し方ないのかもしれませんが)。で、クラス内に自分の言うことをよく聞いてくれてお手本になりそうな子を男子、女子それぞれにひとりかふたり作り、その子たちのことは皆の前でほめる、異端児扱いしたヤツは皆の前でけなす、みたいなえこひいきを駆使した学級内政治をしてました。この映画の教師も令和版にアップデートされてはいますが、本質的にはあまり変わってないかな
コメントありがとうございます。
大人相手であれば、とりわけビジネスの場なんかではあの合理性が必要だったりもするんですけどね。
それでもあの場、あの状況では絶対的に正しくはない。
大人も子供も誰一人正しくない描き方だからこそ、リアルだし考えさせられました。
共感&コメントありがとうございます。
母親の抑えつけバーン!に抗議するのは、いじらしかったですね。こういうので子どもたちが一つ成長した・・って表現は観ていてちょっと複雑です。








