「UN」無名の人生 ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
UN
監督作の「MAHOROBA」から独特な作風だなと気になっていた鈴木監督の最新作。
予告やポスターからは掴めるものが少なく、一体どうなるんだろう?と期待マシマシ不安チョビチョビで鑑賞しましたが、とんでもないものの詰め合わせで圧倒されっぱなしでした。
こんな作品観たことない!っていうくらい怒涛の情報量にぶん殴られっぱなしでした。
セリフほぼ無しで進むオープニングから想像力が膨らんでいき、主人公の背景なんかが描かれるのですが、ハイスピードで両親が出てきて主人公が生まれたかと思いきや、あっという間に成長して、ポーッと観ていたらコンビニに車が突っ込んで両親が轢かれるという急展開に思わず目が大きく開いてしまい、最初から呆然としていました。
そこから主人公の小学生時代からの交流が描かれていき、喋らないことや行動などでいじめられつつも、同じような境遇を持った友人ができ、そこからアイドルを目指す物語が始まり、オープニングと徐々に繋がっていくという学生時代が濃密でした。
アイドルとして社会に飛び出してからの苦悩、社会のレールから外れてとんでもない事になったりと、ここまででなくても、いつこんな風になってもおかしくはないよなと変にゾワっともしました。
ここ最近の社会問題なんかをガッツリ取り込んでいるのは個人制作だからこそ成せる技、そして時代の変化を乗り越えて作られたものだなと感動しました。
高齢者の交通事故からの不起訴の流れだったり、アイドル事務所の性加害を匂わせる感じだったり、トー横キッズがあったりと中々に盛りだくさんで、現実のルートと同じものを通るものもあれば、違うルートへ突き進んだりと監督の目の付け所が鋭すぎて面白かったです。
アイドル事務所のやつなんかもうもろあの社長でしょ?という感じですし、エピソードとして聞く唐突なスカウトだったりアイデアの出し方だったり、合宿所の構造だったりとめっちゃ拾ってるわ…驚きっぱなしでした。
人生の中盤を過ぎたあたりでどんどんディストピアな展開になっていくのも面白いところで、近未来ってこんな感じかもな〜からの近未来ってこんな感じになっちゃうの?という感心と驚嘆が同時に襲ってきたりしました。
長い人生だからこそ分岐点が印象的に描かれるのもあってその都度リセットしながら楽しむことができました。
人生の終盤は手がつけられないくらい突飛な展開にはなっていきますが、これがまた個人的にはとっても好みで、独特な世界観と死生観が誕生しており、セリフ無しの時間が長いこと続きますが、アニメーションの一つ一つに魅了されっぱなしでした。
タイトル回収なんかもされますが、ダブルミーニングでは収まらないんじゃ?ってレベルで怒涛の伏線回収がされたりとでもう感情ワッタワタでした。
エンドロールで一気に現実に引き戻してくれるのも最高です。
どうやって締めるんだろうと思っていたところにトドメを刺してくれるので気持ちよく劇場を後にしました。
アニメーションは全編iPadで作られたという狂気の塊のようなアニメーションですが、シュールなタッチだからこそメッセージがドカンときますし、暴力もエロも悲哀も全部ストレートにくるので画期的だし、全部動かして90分やり切るとか凄すぎるわ…と監督に頭が上がりません。
セリフのエッジも強烈に効いていて、血なんてポカリと一緒じゃんというセリフを始めとにかく洒落ているセリフの連発で心ウキウキワクワクでした。
ACE COOLの楽曲を聴きながらの制作がこういうところで活きているんだなと音楽の力も一緒に感じることができました。
声優陣もほぼ本職ではないんですがしっかりハマっていましたし、ACE COOLの言葉の重みがラッパーだからこそというところが強く出ていて良かったです。
頭をグルングルン駆け巡らせながら楽しめました。
改めて人生って面白いもんだなーと思いましたし、こうやってエグい作品と出会えるのもまた一興だなと思いました。
次回作もどんな尖り方でやってくるのか、期待しています。
鑑賞日 5/20
鑑賞時間 14:20〜16:00
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