「あなたのその言動は、大切な人の「逆火の火種」になっているのかもしれません」逆火 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
あなたのその言動は、大切な人の「逆火の火種」になっているのかもしれません
2025.7.16 アップリンク京都
2025年の日本映画(108分、PG12)
映画監督を目指す助監督が制作と家庭問題に振り回される様子を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本は内田英治
物語の舞台は、都内某所(ロケ地は神奈川県横浜市&横須賀市)
映画監督を目指して日々努力をしている助監督の野島浩介(北村有起哉)は、大沢監督(岩崎う大)が手掛けている「ラスト・ラブレター」の制作の大詰めを迎えていた
撮影開始1ヶ月前に差し掛かり、原作のアパートを再現する物件の下見に訪れていた浩介は、撮影カメラマンの斉田(岡谷瞳)、セカンド助監督(辻凪子)、サード助監督の三船(小松遼太)らとともに念入りなチェックを行なっていた
プロデューサーの橘(片岡礼子)は予算の関係からセット撮影が厳しいとこぼしていたが、大沢監督は「映画の大事なところ」と言い、セットを組むことを譲らなかった
浩介には反抗期の娘・光(中心愛)がいて、妻・幸(大山真絵子)に面倒を押し付けている
娘が裏垢であることないことを呟いているのを知ってから、娘との距離感を取れずにいた
ある日のこと、原作小説を執筆した元ヤングケアラーの有紗(円井わん)の父(三島ゆたか)の兄(世志男)に会いに行った浩介は、本人の墓がないことを知る
浩介は原作の気になるところを裏取りして関係者から話を聞いていたのだが、墓を作っていないことに違和感を持っていた
それは、父の保険金2000万を受け取ったにも関わらず、父の墓すら建てていないことが不思議で、浩介はその事実を確かめるために有紗の母(島田桃依)に会いに行くことになった
母親は「娘のために残したお金だから、自分のために使うのを良しとしなかったかも」と言い、墓を建てていない事を否定はしなかった
その後も聞き込みを続けていた浩介は、高校時代の同級生・由奈(松原怜香)と会い、そこで介護時代の有紗の本音と保険金についての話を聞いてしまう
また、当時住んでいたアパートの大家さん(有希九美)からも事故直後の話を聞き、浩介は「小説の中身が嘘ではないか」と思い始め、さらに「事故ではなく、殺人だったのでは?」と疑い始めるのである
映画は、自分のキャリアアップの途上にて難問に遭遇する浩介を描き、同時に娘との関係がさらに悪化していく様子が描かれていく
同級生からホストに貢いでいることを聞き、カフェと称する風俗の面接に来ていた事を知った浩介は、妻に仕事を休ませてまで監視させていく
それがさらに娘の反感を買い、素行不良がエスカレートしていく
援交のためのPR動画の撮影にまで至った事を知った浩介は、娘が居そうな繁華街で捜索を開始し、見つけて動画を突きつける
そして、感情的になった浩介は、娘からスマホを取り上げて踏み潰してしまうのである
映画は、小説の中身は嘘であることを知った浩介が、正義感から公開中止を模索するものの、大沢監督は「訴求すべきテーマはブレない」と言い、プロデューサーは「作者が殺人を行ったと言う証拠がなければ問題ない」と言う
スタッフたちも「生活がかかっている」と言い、憶測だけで中止にすることに反対の立場だったが、やがて浩介の行動は週刊誌のライター(岩男海史)らに勘づかれてしまう
そして、撮影当日、浩介はある行動に出るのだが、映画はそこから1ヶ月後に飛び、彼が告発をしなかった世界線を描いていく
浩介は映画のヒットのおかげで自身の企画を映画化できるようになり、大沢監督も国際映画賞を受賞する
だが、その絶頂の時、娘はある行動を起こしてしまう
この時の彼女の髪色は全てがピンクに染まっていて、当初は一部のカラーリングだったものがが全体に及んでいた
この髪色は娘が入れ込んでいたホストの髪色と同じで、それが奪われたことに依るわかりやすい闇堕ちのスケールとして演出されている
映画のタイトルでもある「逆火」は「本来とは真逆の炎の動き」を意味する言葉だが、これは「良かれと思った行為が正反対の結果を生み出している」と言う意味にも思える
あの時浩介が行ったことは正しかったように思えるが、娘の目線では「夢のために自身の正義感や道徳も捨てた」ように見えるので、それが最後の行動に至っていると言えるのだろう
彼女は「今度はブルーに染めよう」と言って飛び降りるのだが、これは彼女自身も自分の人生を後悔していて、それを止めてくれる愛情がなかったことを暗に示している
繁華街での顛末で母親が「ずっとそばにいる」と絶叫するのだが、その言葉ですら無意味であった事を示していて、娘に最後まで向き合えなかった故の顛末として演出されていたのだと感じた
いずれにせよ、娘が「父親の夢のために犠牲になっている」と言い放つように、娘は父親に対して無関心ではなかった
だが、仕事を理由に娘への接触を避け、さらに自身の倫理観を投げ捨てて夢に固執している様を見ると、映画の成功は娘への無関心を肯定しているようにも思える
彼女があの瞬間を選んだのは偶然ではなく、計画された復讐であり、それにすら気づけなかったのが両親であるとも言える
有紗が両親の影響を受けて今の彼女があるように、娘もまた両親の影響を受けてあの決断に至っている
ヤングケアラーの問題と、ある種の毒親の存在が重なっている部分があり、センセーショナルな関係以外にも「逆火」を生み出す動線は存在している
そう言った意味において、本作はかなり深く、核心をついたシナリオになっていたのではないか、と感じた