「父子関係のよさがとてもいい。」ルノワール sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
父子関係のよさがとてもいい。
誰にもやってくる「死」に対して、大人と子どもの向き合い方は違う。それは、生(性)に対しても同様だろう。
そんな「死」と「生(性)」に触れたひと夏を超えて、少しだけ大人に近づいた11歳のフキの物語。
ご存知の通り、ルノワールは女性や子どもを多くモチーフにした印象派の画家。
今作は、ルノワールのような眼差しを持って、主人公のフキという少女にまつわるエピソードを、フキの想像がつくりあげるフィクションと現実の部分の境目を馴染ませて、印象的に描き出した作品とも言えるかもしれない。
入り組んだ光と陰の対比、画面の中央付近に配置される垂直線や平行線、人物を中心に置く三角構図、時折差し込まれるアクセントなど、画面づくりが、PLAN75と大変よく似ていた。そこら辺が早川千絵監督の持ち味なのか、浦田秀穂撮影監督のそれなのかはわからないが、自然と物語の大切な部分へのフォーカスを導かれて、とても見やすく心地よかった。
<ここから思いっきり内容に触れます。鑑賞済の方だけお読みください>
・「のっけから、主人公死んじゃったよ。早逝した少女の話だったんかーい」思っていたら「作文でした」というオチ。「なぁーんだ」とも思ったが、「この分では、これから先もうかうかしてられないぞ」と、ちょっと緊張しながら観た。
・河合優実との邂逅は現実だったのか、それとも想像だったのか。冒頭の子どもたちの泣き姿を集めたビデオテープ視聴との関係や、時間軸の前後が不明なこともあって、その判別がつかない。
ただ、そんなあやふやさも、余白と思うと一興。
・11歳のフキにとって、「死」はまだフィクションなので、戦時中の様子を伝える絵や話を聞きながらもラムネが食べれてしまう。ただ、ガンで自宅療養を勧められるほどのステージの父の存在は現実的で、「死」の受け止められなさが、作文という形での言語化や、テレビニュースに気持ちが引っ張られる姿や水風船を落としてみる姿などに丁寧に表現されていた。
そうした、今この瞬間を生きることしか経験のない「子ども」と、先を見通した準備ができる「大人」との対比が、喪服で表されているところが巧み。
・実際に父が亡くなってからも、英会話教室でのシーンのように、フキは何となく実感が湧いていない様子だった。けれど、そういうことは、子どもだけでなく、大人にもあるし、フキが食卓で急に思い出したように、ふとした瞬間にその人の喪失を強く実感することもある。そんな所もリアルだった。(ファミレスのバスタオルのシーンとか、笑ってしまったが、とてもよかった)
・超能力ブームがあったのは、もうちょっと前な気もするけれど、誰かと念を送り合って意思疎通を図る象徴として、父と子、友人同士、そして子と母の関係を表現するのに、いい役割を果たしていた。
・様々な思惑が絡んだ大人たちの性や、性癖の問題は、ここで積極的にコメントしたいようなものではなかったので触れない。
・石田ひかり演じる母は、パワハラで研修を命じられることになるが、うがった見方をすると、男性の管理職が部下に対して彼女と同じような言動をしても、同様の処分だったのだろうかと思ってしまった。それから、中島歩のセリフを聞いて、認知行動療法的な取り組みが当時あったのか?
とも思ったが、こうした部分は、時代考証よりも、カンヌなどにフィットする現代的な感覚優先の部分なのかも。
・石田ひかりは、リリーフランキーの看病疲れと将来への不安で、ガンと戦っているリリーフランキー自身にも当たってしまうが、そこがとてもリアル。決して彼女がパワハラ体質ということではないと、患者の立場になった経験から思う。
・病院のナースキャップ、伝言ダイヤル、キャンプファイアで流れるライディーンなどに懐かしさを覚えた。また、ガン患者に対して、民間療法を持ちかけてくる手口は、当時実際に目にしたので、リアルだった。小道具など、細かなところでれも時代の空気感がよく現わされていた。
・とにかく、フキが不幸な結末を迎えずに、ホッとした。
クルーザーでのダンスシーンは、イニシエーションを経たあとの、明るい未来を感じさせた。
・数字を見ると、評価は余り高くないようだが、自分は好きな作品。特に、川沿いの道を、父と手を繋いで歩いてくれる娘が、同級生の前では手を離すが、それを何も言わないリリーフランキーと、再び手を繋いでくれる娘がいい。