劇場公開日 2025年6月20日

「映画でなくては表せない生の凹凸」ルノワール La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)

映画でなくては表せない生の凹凸

2025年8月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

【ルノワール】

 初めての長編監督作『PLAN 75』でカンヌ映画祭のカメラドール(新人監督賞)をいきなり受賞した早川千絵監督の第2作です。

 11歳の少女フキが覗き見る大人の世界を小さなエピソードを織り重ねながら描いた物語。一緒に観た我が家の妻も僕も観終えてから

 「相米慎二監督の『お引越し』(1993)の世界だね」

と、全く同じ思いを抱きました。恐らくその影響は受けているのでしょうが決して物真似ではなく、紛れもない2025年の映画でした。『PLAN 75』の様な強いストーリーがある訳ではないのですが、フキの目に映る社会、そして自分自身の危うさが繊細ながらも明瞭な凹凸感で展開します。一つ一つは小さなお話なのかも知れませんが、言葉にしない眼差しや表情・間が、僕自身にもあったかも知れない、そして今も抱えているであろう「生の苦み」の様な物を緩やかに浮かび上がらせます。ストーリーを言葉で説明しただけでは何も伝わらない、これこそ映画の世界です。

 何より、フキ役の鈴木唯ちゃんが素晴らしい。子供だけれど何もかもを見透かした様な眼差し。不満だけれど不安な表情。よくぞこんな子供を見つけて来たものだと驚きました。

 物語の組み立ても巧みです。冒頭でいきなり「なんじゃこれ?」と思わせて観る者を一気にお話の中に引きずり込みます。そして、物語と直接関係のないライディーン(YMO)のダンスを観る者の脳裏に強烈に刻み込むのです。これも監督の周到な計算なんだろうな。僕は大好きです。

La Strada