「実験してみる世代」ルノワール 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
実験してみる世代
2025年。早川千絵監督。小学校5年生の感受性鋭い少女が、末期がんを患う父、キャリア志向の母、できたりできなかったりする友人、などと触れながら、表面的ではない彼らの本心を見抜いたり挑発したりして大人になっていく、奇跡のようなひと夏の話。
少女は催眠術や透視術にはまり、父親が新興宗教的なものにはまっているあたりに時代感覚が現れている。80年代後半の時代設定は見ているうちになんとなくわかってくるが、監督自身の世代と同じようだ。笠松競馬場が出てくるから岐阜県なのだろうが、だとするとあの印象的な川は長良川か木曽川か。
しかし、重要なことは時代や地域ではなく、少女が催眠術や透視術のテレビや本にはまったときに、自分でやらずにいられないことの方だ。伝言ダイヤルの番号を知ったら電話をかけずにいられないし、同年代の少女の三つ編みが気になったらその髪に触らずにはいられないし、友人の父の浮気写真を見つけたらそれを友人に見つけさせずにはいられない。そして、その危険と隣り合わせの好奇心によって、少女は人間の奥深さを知り、あやうく少女趣味の浪人生の餌食になりかけ、友人ができ、その友人が遠くに引っ越していくきかっけをつくることになる。死期が近い父親に向ける視線も、悲しみよりも好奇心の方が強く、その視線によって、表面的な情緒的関係とは別の関係(透視術の成功)を父親との間に築いている。そしてどうやら母親とはそうした関係にはならないらしい。好奇心旺盛な実験精神によって世界と触れ合っていく少女のあやういひと夏を見事に形象化している作品。
ルノワールは画家の父親の方を指すと作品内で言及されているが、息子の映画監督の方を意識していないわけがないと思わせる広々とした端正な画面と落ち着いた展開。
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