「キャラ渋滞問題とストーリーテリングが最悪で、FXの演出もファンタジーで救いようがない」キャンドルスティック Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
キャラ渋滞問題とストーリーテリングが最悪で、FXの演出もファンタジーで救いようがない
2025.7.10 一部字幕 T・JOY梅田
2025年の日本&台湾合作の映画(93分、G)
原作は川村徹彦の『損切り:FXシミュレーション・サクセスストーリー』
ハメられた天才ハッカーが復讐のためにある計画に参加する様子を描いた金融系スリラー映画
監督は米倉強太
脚本は小椋悟
物語の舞台は、2019年5月の東京・兜町
かつてホワイトハッカーとして活躍していた野原賢太郎(阿部寛)は、株価操作の疑いで逮捕され、懲役を終えて出所していた
彼には恋人の杏子(菜々緒)がいたが、彼女は数学者・望月功(津田健次郎)の妻だった
望月から呼び出された野原は、そこでコップの水をぶちまけられるものの、望月はこの闘争は終わりだと告げた
杏子はFXで生計を立てるためにセミナーに参加していて、そこで野原と出会うことになった
杏子は「数字に色が見える」という「共感覚」の持ち主で、野原にもその特性があった
その後、関係が深まったのちに、望月との確執が生まれるようになったのである
一方その頃、杏子が通うセミナーの講師・吉良(YOUNG DAIS)は、自身が経営する施設「夜光ハウス」の資金繰りに窮していた
仲間のファラー(サヘル・ローズ)とともに孤児たちを育てていたが、国税局の査察によって解散に追い込まれそうになっていた
一攫千金を狙ってFXに投資をする吉良だったが、想定外の動きに全財産を失い、途方に暮れることになったのである
映画は、出所した野原の元に、かつての同僚で今は台湾で起業しているルー(オースティン・リン)から連絡が入るところから動き出す
ルーは叔母のリンネ(アリッサ・チア)からある計画を打診されていて、そのために野原のハッキング能力が必要だった
一緒に働いていたSEのロビン(デヴィッド・リッジス)も加わるものの、「AIを騙すためのプログラム」は難航を極めていた
彼らの計画は、AIにフェイクニュースを感知させ、それによって不穏な売買が起き、それが修正されるまでの10秒を狙うというもので、そのプログラムはイスラム圏では正常に反応しなかった
そこで、ロビンはイランの友人アバン(マフティ・ホセイン・シルディ)に協力を要請するのだが、彼は友人のファラーが金策に困っていることを知っていた
そこで、ロビンたちに協力する代わりに金銭を要求することになり、ファラーもその計画に参加するようになる
さらに、野原は杏子にもその計画を打ち明けていて、彼女にもレバレッジ500倍の取引をさせようと考えていたのである
映画は、FXの知識があると困惑する内容で、劇中では円安になるフェイクニュースを流すと言っていたと思う
だが、チャートは下落(円高)の方に動き、その落ち切ったところでドルを買って、上がりきったところで売るという演出になっていた
円安になったところを捉えるならば真逆のチャートになると思うのだが、そこはドル円ではなく円ドルのチャートだったかもしれない
だが、実際の映像では「チャートの下落が107円20銭ぐらいで、それが反発して113円ぐらいになる」というチャートだった
これは110円ぐらいだったレートが一旦107円まで円高になって、その後AIがニュースをフェイクと判断して、正常値に戻そうとするものの、113円まで反発して円安に振れたというものだった
なので、フェイクニュースによって「円高に作用した」というものなので、真逆のことが起こっていると言える
さらに言えば、FXのチャートを見たことがある人ならばわかると思うが、おそらくあのチャートは1分足(10秒の取引のために日足を使う人はいないと思う)のようなスケールの小さいものだった
それまでの動きというものは20〜30銭ぐらいの値幅で折れ線になっていたが、一気に値幅5円の動きが出ると、それまでのローソク足はスケールが一気に変わるために「ほぼ直線」になってしまう
雇用統計などで1円動くだけでも心電図フラットみたいなチャートになってから噴き上がる(あるいは奈落)になるので、それまでのローソク足の動きが残ったまま表示されることはない
このあたりの雑な演出を見ていると、FXをやったことがない人が作ったんだなあと思ってしまった
ラストでは、リンネを嵌めるために「彼女のプログラムに10秒だけ遅延させて表示させる」みたいな暴露があり、さらに横領に関しては娘のメイフェン(タン・ヨンシー)が行ったみたいなことが描かれていた
10秒だけ表示を狂わせるというのはほぼ不可能なテクニックで、取引ツール全体を偽装しつつ、リンネが取引できる状況を作らなければならない
FXには契約しているところが発行している取引ツールを使うことが一般的なので、そのサーバーをハッキングして、偽の取引ツールを表示させていることになる
この不正アクセス自体が容易にできるとも思えないので、ざっくりしているなあと思った
いずれにせよ、なんちゃって金融映画として楽しむしかないのだが、シナリオの構築があまりにも酷く、開始20分で主要キャラと物語の方向性を提示できていないのは痛い
無駄な水ぶっかけとか、瀬戸際で数学者の発表した謎理論で打開したみたいな流れになっているのも無茶で、その理論でどうやってイスラム圏のAIにフェイクを信じ込ませたのかもわからない
フェイクニュースで為替が動くのはたくさん見てきたが、その初動はAI自動売買ツールというよりも、その動きに便乗する個人投資家とか、フェイクニュースを知った上でインサイダーを行うヘッジファンドだと思う
そう言った観点からも、AIを騙すというところからリアリティがなく、むしろ「石油精製施設のシステムをハッキングして稼働が止まる」みたいなことをやった方がマシだし、要人を脅して無茶な発言をさせる方がリアリティがあったりする
日本の元号が変わったぐらいで全世界のAIが反応するということもなく、そこは普通に西暦を使用していると思うので、なんだかなあと思う
色々とアレな作品だったが、AIにシナリオを書かせた方がまだマシなものになったんじゃないかなあと思うし、そもそも2019年の設定でAIを騙す話を作るというところもピントがズレているなあと思った
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