「笑って泣ける、王道少年漫画的熱きストーリー!」ナタ 魔童の大暴れ 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
笑って泣ける、王道少年漫画的熱きストーリー!
【イントロダクション】
中国神話の最高峰『封神演義』を原作に、『西遊記』にも登場する少年戦士で中国の国民的キャラクター、哪吒(ナタ)を主人公にしたCGアニメーション・シリーズの第2弾。
監督・脚本は、前作『ナタ〜魔童降臨〜』(2019)に引き続き餃子(ジャオズ)監督。
本国では春節の始まる今年の1月末(1月29日)に公開され、社会現象を起こして早くも累計興行収入は21億ドル(約3,000億円)を突破し、世界歴代興行収入第5位、アニメーション映画世界歴代興行収入第1位(共に2025年4月現在)という歴史的快挙を達成。
【ストーリー】
天地の気の凝縮した秘宝・混元珠(こんげんしゅ)。天地の中のいかなる力を吸収することが出来るこの秘宝は、最高神“元始天尊(げんしてんそん)”の力で魔丸と霊珠の2つに分かれ、魔丸は“哪吒(ナタ)”、霊珠は“敖丙(ゴウヘイ)”として生まれ変わった。そして、本来宿敵となるはずだった2人は親友となった。
2人は天の災難で肉体を失い、魂だけの状態になっていた。哪吒の故郷である「陳塘関(ちんとうかん)」では、哪吒の師“太乙真人(タイイツシンジン)”が七色宝蓮という特殊な蓮根を用い、彼らの魂が入る肉体を作り上げていた。
そんな折、陳塘関に“東海龍王・敖光(ゴウコウ)”の遣いとして、敖丙の師“申公豹(シンコウヒョウ)”がやって来る。彼は、東海龍王と共に海の底に沈む都市「龍宮」に鎖で繋がれ幽閉されている“西海龍王・教聞(ゴウジュン)”の持つ、空間を切り裂いてワープ空間を作り出す《裂空爪(れっくうそう)》を与えられていた。申公豹は、裂空爪を用いた武器《裂空雷公鞭(れっくうらいこうべん)》を使い、龍王らと共に海底に幽閉されている妖魔たちを呼び寄せ、敖丙の死の復讐として陳塘関を襲撃しに来たのだ。
敖丙は、取り戻したばかりの肉体で申公豹と父・敖光を踏み止まらせる為に無茶をし、再び肉体を失ってしまう。再び肉体を作ろうにも、七色宝蓮は先の2人の肉体作りで消耗し、枯れ果ててしまっていた。
何か手はないかと尋ねる敖光に、太乙真人は崑崙山(こんろんざん)にある『闡教(せんきょう)』の総本山「玉虚宮(ぎょくきょきゅう)」にて哪吒を修行させ、仙人にする事を提案する。修行を終えた者は仙人になる際、宝物庫から宝を一つ授かる事が出来、その中にある霊薬を用いて七色宝蓮の力を取り戻そうというのだ。
敖丙の魂は哪吒に憑依し、太乙真人と共に玉虚宮へ向けて旅立つ。
玉虚宮に辿り着いた哪吒たちは、不在中の元始天尊に代わって玉虚宮を統治する仙人“無量仙翁(ムリョウセンオウ)”に謁見する。
仙人になる修行には3つの試練があり、妖魔たちを倒して捕縛する事を命じる。無量仙翁の側近にして妖魔退治の隊長を務める“鹿童(カドウ)”の監視の下、哪吒は敖丙に肉体の主導権を譲りつつ、妖魔退治を成功させていく。
しかし、陳塘関には思いもよらぬ魔の手が忍び寄りつつあった…。
【感想】
IMAX版鑑賞。
Xで密かな盛り上がりを見せている事を偶然察知し、GW商戦の新作群がスクリーンを占拠してしまう前に、優れた環境で鑑賞しておこうと急遽足を運んだ。
続編モノだという事は、原題や評判から承知しており、多少の置いてけぼり感を覚悟の上で望んだが、冒頭のナレーションやXでの公式アカウントによる相関図のおかげで、ある程度の事は察せられ、すんなりと物語の世界に入っていく事が出来た。
先ず何よりも、「アニメーション映画世界歴代興収1位!」という謳い文句に驚く。世界公開はされているが、その殆どが自国の興行収入によるもの。自国の収入だけでこれだけの数字を叩き出せるというのは、改めて中国市場の規模の大きさを思い知る。
大ヒットも納得(ただし、世界興収5位になるほどかは疑問)の、激しいアクション、コメディ、友情、親子愛、主人公の覚醒と、まるで少年漫画かのような熱い展開の数々に、中国アニメの本気を見た。子供から大人まで、幅広く感動させられる要素に満ちており、本国で社会現象化するのも頷ける。
クライマックスで覚醒した哪吒が、敖丙の手を取り「力を貸せ」と言うシーンには、思わず目頭が熱くなった。また、哪吒が無量仙翁を殴る瞬間、一瞬だけ手書きアニメに切り替わったショットも良い。
無量仙翁、ひいては闡教という教派の、自らの正義を振り翳し、弱者を支配する事を是とする歪んだ思想を、哪吒たちに否定させてみせる様子は、まるで自国の政府批判のようにも映り、その鋭いメッセージ性は侮れない。
CGアニメーションのクオリティは世界基準で、開始からラストまで、とにかく景気の良いアクションが続く。特に、水や炎、爆発による煙まで、エフェクトのリアリティが凄まじく、IMAX映えしていた。
ただし、アクションシーンが重力を無視した縦横無尽さに溢れ過ぎており、終盤に向かうに連れて「慣れ」と「飽き」が来てしまったのは勿体なく感じた。人間であるはずの哪吒の両親、“李靖(リセイ)”と“殷夫人(インフジン)”まで『ドラゴンボール』よろしく武空術の使い手かのように、当たり前に宙に浮いて戦うもので、あまり深く考えてはいけないのかもしれないが。
せっかく、クライマックスでは『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)ばりの「アッセンブル」な展開とアクションを繰り広げるのだから、メリハリを付ける意味でも、そこに至るまではもう少し現実に根差した“重さ”が感じられるアクションを心掛けてほしかった。
また、哪吒と敖丙が2人で無量仙翁に立ち向かうシーンは、敖丙の龍王化含めて、もう少し丁寧に時間を割いて魅せてもらいたかった。
【魅力的なキャラクターの数々】
何といっても、哪吒のデザインが素晴らしい。悪童らしい鋭い目付き、生まれつきの目の下の隈、豚鼻、常に気怠そうに振る舞う姿まで、短所となるはずの部分がどれも絶妙な愛らしさを放ち、魅力的だった。
炎を操り、子供らしく無邪気で我儘に振る舞う姿は、クライマックスで覚醒して青年の姿になってからのクールな立ち振る舞いをより引き立たせている。
敖丙の正統派美少年キャラも良い。氷を操り、能力と同じく戦闘では常に冷静沈着、しかし他者に対しては心優しい性格と、粗暴な哪吒の対となる存在として輝いている。出来れば龍王化した姿をもっと見ていたかった。
東海龍王・敖光も正統派な武人キャラとして存在感抜群だった。敖丙の整ったビジュアルも「この親あって、この子あり」という説得力に繋がる。水を操り、無量仙翁の側近、鹿童と鶴童(カクドウ)を1人で相手取る実力者。水の大剣カッコ良すぎ。
申公豹の悪人になりきれない苦悩ぶりは人間的で感情移入しやすい。闡教で評価される為、苦悩しながら影の汚れ仕事をこなしつつ、弟の申小豹(シンショウヒョウ)の前では良き兄でありたいという弱さが人間的。騙されていた事を知り、単身三大龍王と無量仙翁に立ち向かう後ろ姿のショットには震える。
黒幕となる無量仙翁も素晴らしい。好々爺らしい見た目ながら、絶妙な胡散臭さも漂わせており、端々の仕草や台詞に凝り固まった思想の危うさが出ている。本性を表してからは、閉じていた目を薄っすらと開け、歪んだ野望が見て取れる。本気を出してマッチョ化してからの哪吒と敖丙とのアクションは、もっとその肉体に相応しい殴り合いを展開してほしくはあったが。
ポストクレジットでの“顔認証”の件には笑った。
物語を先導する個性豊かな男性キャラクター達に負けず劣らず、女性キャラクターが魅力的なのも本作の特徴。
哪吒の母・殷夫人は、魔丸である哪吒にも深い愛情を注ぎ、それがクライマックスで哪吒の覚醒を後押しする。良き母であると同時に優れた武将でもあり、戦闘シーンでの活躍も見せる。哪吒の新しい姿を“盛る”件で、ちゃっかり“塩顔のイケメン”や“美男子”をリクエストしているコミカルさも面白かった。覚醒後の哪吒のイケメンぶりは、きっと母も大満足のはず(笑)
余談だが、私の入場者特典キャラクターカードは彼女。物語的にも母親としても素晴らしいキャラだった。
西海龍王・教聞の蠱惑的な立ち振る舞いも印象的。龍王形態からも独特な色気を放ち、事態を思い通りに運ぼうとする裏切り者枠として存在感を放つ。人間形態になってからの挑発的な目付きは、原作である『封神演義』に登場する妲己や楊貴妃のような“傾国の美女”感を漂わせる。裂空爪というチート能力含め、続編での更なる活躍に期待したい。
鶴童の正統派黒髪ロング美人キャラも良い。その正体は、鹿童と同じく無量仙翁が術で変化させた動物(それぞれの名前に正体が隠されているのも◎)で、敖光曰く「ペテンだらけ」な闡教の在り方を象徴している。
【総評】
ストーリーやアニメーションの圧倒的な熱量、魅力的なキャラクター、エンターテインメントとして必要な要素を兼ね備えたポテンシャルの高い一作で、思わぬ拾い物となった。
惜しむらくは、急遽日本語字幕版の公開が決まった事による、パンフレット製作が無かった点だろう。作中の固有名詞や、原作の本国における人気等、こういう作品にこそ詳細な解説を含んだパンフレットは必要不可欠だと思うのだが残念だ。
更なる続編もある様子なので、今後の展開を楽しみにしたい。
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