「満たされない人生」アブラハム渓谷 完全版 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
満たされない人生
1993年。マノエル・ド・オリベイラ監督。裕福な家庭に育った女性(エマ)は敬虔なカトリックの叔母の影響を受けつつも自由に美しくプライドの高い女性へと成長していく。妻を亡くした年上の医師と愛のない結婚をして上流階級のパーティへも参加するが、男たちと性的な関係を持っても心は満たされない。娘2人をもうけながら、ままにならない人生を生きていく。
フローベール「ボヴァリー夫人」を現代的に翻案した小説があり、それが映画の原作になっているというから「ボヴァリー夫人」から派生していることは間違いない。主人公が自らそれを意識している(自意識)ことを除けば、物語の筋は確かに近い。それも興味深い(あーあの場面かと指摘する楽しさ)。主人公は意識しつつもどこがボヴァリー夫人的なのかわかっていないのだが。しかも、本家本元のように救いのない悲劇的な結末というわけでもない。夫の亡くなり方は極めて似ているが。
もっとすごいのは映像と編集、音、そして会話。片足をやや引きずるエマの歩きのリズムとともに、映像と音と会話が滑らかさを保った緩やかなぎこちなさで進む。すべてのショットが美しいが、蛇行する川とぶどう畑や屋敷の俯瞰ショットや、カラフルなエマの衣装はまた格別。
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