独特の雰囲気を持ちながらも、
いくつかの側面で非常に高技術な作品であることが分かる。
特に2幕目中盤から3幕目にかけて、
物語は一気にスリリングで予測不可能な方向へと展開する。
その展開が観客の評価を大きく左右することになるだろう。
ホラー的な要素が強まるのか、
哲学的なテーマにシフトするのか、
それとも心理的な掘り下げが行われるのか、
それぞれの選択肢が交錯し、
最終的にある方向に着地するのだが、
ことさらエグい描写も無く、
作品の狙いは普遍的な事にあるのだろうと推測できる。
本作の最大の魅力は、
その心理描写の巧みさだ。
登場人物たちの内面が細かく、
また多層的に描かれており、
その複雑さが作品全体に深みを与えている。
演出技術は高く、
特に視覚的な面での表現も非常にスタイリッシュで、
カメラワークや構図の使い方が実に洗練されている。
広角レンズを多用した真俯瞰のカットや、
基本的に正面位置からの視点を多用することで、
作品全体の空気感が一貫して保たれている。
これらの演出は、
映画としての美学と緊張感を巧みに操っていると言えるだろう。
シナリオに関しては、
近年の『ニューオーダー』や『パラサイト』、
そして『聖なる鹿殺し』や古くは『テオレマ』といった作品群に通じるものがある。
特に、ストレンジャーが侵入してくる展開や、
社会的階層の不穏な描写が見られ、
観客に不安と不確かさを抱かせる手法が巧妙だ。
しかし、
もし妹アルバのキャラクターや役割がもっと効果的に使われていれば、
もう少し深く掘り下げられていれば、
物語のテーマと絡んで、
さらに強いインパクトを与えられたはずだ、
シナリオには書かれていて撮影済みだが、
編集でオミットした可能性もある。
登場人物名のエスターやアルバ、テオドラ等の寓話、民話に由来する意味、
特に旧約聖書の謎の聖女Estherを連想させるキャラクターは、
作品に神秘的かつ独特の雰囲気をもたらし、観客に強い印象を与える。
これらのキャラクターが映画内でどのように扱われ、
物語にどう組み込まれていくのかが、
作品全体の深さを生み出しているとも言えるが、
好みの問題もあるが、個人的にはあまり良い表現とは思えない、
そんなん知らんけど~ってなりがちだからだ。
とはいえ、
その多層的な仕掛けがうまく機能していると感じざるを得ない。
その理由は、
撮影、照明、衣装を含むプロダクションデザインの技術の高さにも関係してくるからだ。
全体的に、映像美とサスペンスの緊張感が絶妙に調和しており、
視覚的なアプローチが作品におけるテーマを強化している。
また、映画全体に漂う異質な様式美は、
パゾリーニ、ハネケ、ランティモス、オストルンドといった監督たちの作風を彷彿とさせるものがあり、
視覚的な刺激とともに哲学的な問いかけを提供しているとも言えなくもない。
この点で、本作は観客に思索を促す映画であり、
ただのエンターテインメントを超えた価値を持っているともいえる。
総じて、『デリシャス』は、心理的な深み、演出技術、
プロダクションデザインのいずれにおいても高いレベルに達しており、映画としての完成度は非常に高いと言えるだろう。
しかし、後半の展開、
アルバというキャラクターの扱いにもう少し工夫があれば、
さらに深い評価ができたであろう点が惜しまれる。
それでも、この映画はテーマ的に、
また技術的には注目すべき作品であり、
鑑賞後に余韻を残すことは間違いないだろう。