劇場公開日 2025年8月8日

「新シリーズ始動も、邦題のような華々しい復活ではなかった印象」ジュラシック・ワールド 復活の大地 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5新シリーズ始動も、邦題のような華々しい復活ではなかった印象

2025年8月19日
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鑑賞方法:映画館

楽しい

興奮

《IMAXレーザー》にて鑑賞。
【イントロダクション】
『ジュラシック・ワールド』シリーズ最新作。前作、『新たなる支配者』(2022)から5年後の世界を舞台に、大型恐竜のDNAを用いた新薬の開発の為、新たなキャラクター達が熱帯地域へ回収作戦に向かう。
主演に、映画史上歴代最高興行収入俳優(2025年8月時点)のスカーレット・ヨハンソン。その他共演にマハーシャラ・アリ、ジョナサン・ベイリー。
監督に『GODZILLA』(2014)、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)のギャレス・エドワーズ。脚本にシリーズ第1作『ジュラシック・パーク』(1993) のデヴィッド・コープがカムバック。

【ストーリー】
17年前。赤道直下の熱帯地域にあるサン・ユベール島では、インジェン社の遺伝子組み換えによる新恐竜の開発プロジェクトが進められていた。しかし、研究所内で事故が発生。最も恐れられていた新恐竜“D-REX”によって職員が犠牲となり、新恐竜開発プロジェクトは凍結され、施設は閉鎖された。

時は現在。バイオシン社の事件から5年が経過し、地球上には様々な種類の恐竜が解き放たれた。だが、現代の地球環境は彼らの生存に適しておらず、そのほとんどが絶滅した。僅かに生き残った恐竜達は、かつての地球環境に類似している赤道直下の熱帯地域に生息。世間の恐竜達に対する関心は薄れつつあった。

秘密工作員のゾーラ(スカーレット・ヨハンソン)は、製薬会社パーカー・ジェニングスのマーティン(ルパート・フレンド)の依頼により、古生物学者のヘンリー博士(ジョナサン・ベイリー)、元傭兵の船乗りダンカン(マハーシャラ・アリ)らと共に、大型恐竜のDNAを回収する極秘任務を開始する。大型恐竜のDNAを用いた新薬が開発されれば、人類の心臓疾患が改善され、平均寿命を更に引き伸ばす事が出来ると考えられているからだ。

回収すべき恐竜は、陸・海・空を代表する3種類の大型恐竜。陸のティタノサウルス、海のモササウルス、空のケツァルコアトルスだ。一向はダンカンの船でフランス領ギアナのサン・ユベール島に向かう。

一方、ヨットで大西洋横断旅行中のデルガド一家がモササウルスの襲撃を受け、ヨットが転覆してしまう。一家の発した救難信号をキャッチしたゾーラ達は救助に向かい、彼らと共にサン・ユベール島に向かう事となる。

【感想】
『ワールド』シリーズ第4作にして、『ジュラシック』シリーズでは通算7作目。新シリーズ始動に向けて白羽の矢が立ったのは、個人的に次世代を担うヒットメーカーとして一目置いている、イギリス人監督のギャレス・エドワーズ。
監督は、これまでも『GODZILLA』(2014)でCG表現によるゴジラを用いた「圧倒的な巨大生物を人間視点で下から見上げる」という日本の着ぐるみ特撮では表現出来なかった演出でシリーズに新しい風を齎した。続く『ローグ・ワン』(2016)では、ラストのダースベイダーによるフォースとライトセイバーを駆使した反乱軍兵士を蹴散らして通路の奥から迫って来るという「こんなダースベイダーが観たかった!」と唸るような圧倒的なラスボスの格を描く見事な演出を生み出してきた。
だからこそ、ギャレス監督ならば人気コンテンツに新しい風を齎してくれるのではないかと期待していたのだが、正直期待し過ぎてしまっていた。流石にこれだけシリーズを重ねてきては、目新しさを出す事は難しく、これまでのシリーズで積み上げられてきた「らしさ」を積み重ねて無難に仕上げた印象。

傑作ではないが、かと言って駄作とまではいかない、何とも微妙な立ち位置。煮詰める所を煮詰めさえすれば、傑作となり得たであろう要素も多いだけに勿体ないとすら言える。

本作はとにかくツッコミ所に枚挙に暇がない。前作『新たなる支配者』(2022)と、前々作『炎の王国』(2018)で世界中に恐竜が解き放たれたわけだが、現代の地球環境に適応出来ずに殆どが絶滅しているとはあまりにも人間に都合が良過ぎやしないだろうか。過去作で描かれてきた、性別制御によって雌しか産まれず、予想外の繁殖を防ぐ処置や、遺伝子組み換えによる新恐竜の開発と、様々なアプローチが成されて誕生した恐竜達に“現代の地球環境で生存可能な環境適応の処置”が施されていないというのは、流石に無理がありはしないだろうか。

また、何かしら事件が起きなければ物語が立ち上がらないのだが、それにしても、その原因がお菓子の包み紙によって防護扉が故障し、基地全体のシステムが再起動してしまうという全システムが統一されたガバガバ設計は酷過ぎて笑ってしまった。そこは、本作の実質的なラスボスである“D-REX”が狡猾さを発揮してシステムを破壊するといった(それは『ジュラシック・ワールド』(2015)でインドミナス・レックスが似たような事をやったとはいえ)、新恐竜の出番含めた演出が欲しかったところ。

最大の問題点は、新恐竜であるD-REXのデザインだ。まるでコブダイのような肥大化した頭部と、6本足(内2本の腕に当たる部分は、T-REXのように未発達な短いデザイン)を持つ巨大なエイリアンのようなデザインなのは、新恐竜としてもラスボスとしてもいかがなものだろうか。せっかく遺伝子組み換えによる新恐竜などというインチキをやるのだから、研究施設で開発が進められていた双頭の翼竜のように、2つの肉食恐竜の頭を持つ出鱈目な新生物でも良かったのではないだろうか。また、このD-REXの活躍がイマイチパッとせず、クライマックスの盛り上げ役にも拘らず、中盤でデルガド一家を襲ったT-REXの迫力に完全に負けてしまっている。
正式名称をディストータス・レックス(Distortus rex)と言い、その言葉が指し示す通り「歪み」を軸にしているキャラクターであり、また監督自身が『エイリアン』のゼノモーフを参考にしていると語っているので、その歪で不気味な姿はある意味その通りではあるのだが、少なくともラスボスを任せられる風格のキャラクターではなかったように思う。

シリーズを代表するキャラクターであるT-REXの活躍については、流石花形だけあって中盤でデルガド一家を川で襲うシークエンスが用意されている。睡眠中の姿は何処か間抜けで可愛らしいが、一度覚醒して獲物をマークしてからの迫力は良い。このシーンについては、ギャレス監督も大絶賛したという『ゴジラ-1.0』(2023)の影響も大きいのではないかと思う。T-REXが川を泳いで迫って来る恐怖演出は、まんま『-1.0』でゴジラに海で襲われるシーンそのものだった。

キャラクター描写についても、色々と問題があるように思う。主人公にあたるゾーラでさえ、母親を心臓病で失った事や、かつての戦友を失った事が取ってつけた設定かのように台詞で語られるのみで、戦友についてはそれが恋人なのか戦友なのかすらイマイチ判然としないレベルだ。
途中から別行動で島の内部を探索する事になるデルガド一家と、一家の長女テレサの恋人ザビエルの活躍も、ハリウッド映画のヒット作で必須とされる「家族愛」を演出する為に無理矢理捩じ込まれたかのよう。
ゾーラ達による決死のDNA回収ミッションか、デルガド一家による恐竜島での冒険、そのどちらかだけでも十分物語として成立したと思うので、ゾーラ達を軸にするか、デルガド一家を軸にするか、どちらか一方を取ってじっくりと描いてほしかった。

マスコットキャラと言わんばかりのアクイロプスの“ドロレス”は愛らしいが、その見た目通りの愛玩動物、イザベラの庇護欲を描く為の保護対象以上の役割は果たしていなかったと思うので、これもまた勿体なく感じられた。

大型恐竜のDNA回収ミッションは、まるで恐竜版『インディー・ジョーンズ』を観ているかのようで楽しくはあった。ただし、ゾーラ達にせよデルガド一家にせよ、「誰が犠牲となって、誰が生き残るか」という部分が、こちらの想像通り過ぎて冷めてしまう瞬間もあった。人数が減っていくのも面白さであるはずの本作のストーリーにおいて、「コイツは犠牲になるだろうな」「コイツは助かるだろうな」という観客の予想が、全てその通りにお出しされてくるというのは、ファミリー向け大作映画だとしてももう少し工夫が欲しかった。
また、襲われるシチュエーションも、「背後から」や「煙の中から」といったワンパターンなものばかりで、物語が終盤に向かうに連れて飽きが来てしまった。

しかし、本作で唯一と言っても良い絶賛ポイントも存在する。それは、ゾーラ達をはじめ、登場人物達は皆恐竜達の生存に不必要に関与せず(人間による恐竜の殺害は、ゾーラが皆を救う為にミュータドンを撃ち殺した場面のみ)、また異種交配による新恐竜達を安易に既存の恐竜達と戦わせて排除するといった、『ワールド』で一部から顰蹙を買った方式を取らなかった事だ。
人間達はあくまで恐竜達の生存環境に無断で足を踏み入れた事で捕食されるという立場なのは好感が持てた。

【総評】
新たなスタッフ、新たなキャストによる新シリーズの開幕は、良くも悪くも予想通りの無難な作品としてスタートを切った。恐竜の生息地域が限定された事で、今後は人間達が様々な目的を持ってわざわざ恐竜達の生息地域に足を踏み入れていく事になるのだろうが、続編ではその設定やキャラクター描写に工夫が齎される事を期待したい。

緋里阿 純
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