「良質なパニックホラーだが、「生きている恐竜」を描くことへの興味が欠落しているように感じた」ジュラシック・ワールド 復活の大地 Tigris_M2さんの映画レビュー(感想・評価)
良質なパニックホラーだが、「生きている恐竜」を描くことへの興味が欠落しているように感じた
MX4Dで鑑賞。
今回は監督がゴジラ(2014)の人で、何やら怪獣じみたハイブリッド種が出てくるとの事前情報もあったので、ジュラシックシリーズ好きとしてはやはりちょっと懸念事項があり…
完全にアトラクション映画と割り切って4Dで観る判断をしたが、結果的に正しかったと感じました。
▼良かった点
パークシリーズへの回帰を謳っていただけあり恐竜パニックホラー作品としての質は高く、かなりハラハラできました。
特に序盤の、家族や主人公らの船がモササウルスやスピノサウルスに襲われるシーンは大満足でした!ティラノサウルスに追い詰められ、ボートに牙が押し付けられて迫ってくる閉塞感とかも最高でした。
妙に役者がかっちゃってキャラクター性が強くなり逆に怖さ薄れたインドラプトルや結局誰一人殺さなかったギガノトサウルスから一転、久しぶりにちゃんと命の危険を感じられる恐竜が見られて良かったです。
人がそれなりにちゃんと食べられるのが怖くて良かった。
危惧していたハイブリッド種ですが、恐竜が見たい人間としてはそもそもとして存在するだけで白けるのはありますが、
デザイン面ではよく見たら思ったよりも恐竜の原型が残っていたこと、そして既存の恐竜たちを殺戮して下げてしまうようなこともなかったため、個人的には思ったよりは問題なかったです。(ハードルが下がりすぎていたかもですが…)
意外なことに、妙に不快な人間キャラカップルが出てきたのに、二人ともめぼしい成長もしなければ食われるでもなく普通に影が薄くなっていって終わったのですが、
これはどう調理しても美味しくならないから無駄な掘り下げもしなかった、のなら英断だと思います。
あと、お馴染みの曲がかかるとやっぱりテンション上がります。
▼悪かった点
最も大きな点として、動物としての恐竜への興味が薄いことが透けて見えてしまった、というところがありました。
というか、こっちは恐竜を見に劇場に来てるのに、人々は普通の恐竜なんか飽きてるよねみたいな始まり方するわ、パンフを見てもハイブリッド種作るのが一番楽しかったとか書いてあるわで、まあそういうことだよな…となってしまいます。
「ジュラシック・パーク」の好きなところは、そこに息づく恐竜たちへの、生命への哲学というか、古生物に対する興味が根底にあるところでした。演出上の嘘が多分に含まれていても、そこには生きている恐竜たちへのリスペクトがありました。
これは多少作風が違えど、パーク1〜ワールド3までの6作全てに少なからずあったものだと認識しています。
今作では、その部分が丸っと欠落しているように感じられました。(脚本は初代パークの方だったらしいのですが、果たして演出面が原因なのか、ストーリーなのか、何なのでしょうか…)
先述の通りパニックホラーの恐竜アトラクションとしては楽しい映画だったのですが、ここを理由に評価を大きく下げ、ジュラシック・パークから始まったシリーズとして見たときにワースト作品に置かざるを得ないです。
何というか、ほとんど全ての恐竜が、お化け屋敷のギミックとして設置されているもののように感じられてしまいました。過去作にはある「生きて行動しているところに遭遇した」という感じが本当に薄かった。場面のために置いてあるものを次々起動しているだけ感。
動いている姿を見た時に、言語化は難しいのですが実際の動物を見た時に覚えるある種の感覚がまるでない。
特に最悪だったのがドロレスとか名付けられた小さな草食竜で、アニメチックなキャッチーさに全振りしたディズニー動物キャラをモーションそのままに3Dモデルだけをリアルなものに差し替えた、みたいな感じになっていたように思います。大袈裟に言えば。こんなの恐竜じゃない。動物としての動きを描くということに対する意識が完全に欠落している。とんで跳ねて、あれは妖精かなんかだと思います。
ティタノサウルスに出会って博士が感動しているシーンがありましたが、ここまで胸打たれないシーンにできるとは…。
ハイブリッド種のDレックスとミュータドンは、先に述べた通り出しゃばりすぎないのが普通の恐竜好きとしては傷が浅くなるので良いところではあるのですが、
でもやっぱりじゃあお前らの存在意義はなんだったのってなりはするので悪いところでもありました。
その名前(ディストータス)の通り歪んてしまったDレックスですが、それを敵の主役として配置するのならその悲劇性にある程度の説明をすることは描き手の責任ではないのか?歪むだけ歪ませてここまで何の役割も与えないというのなら、それこそ申し訳ないが本当に「俺は恐竜に飽きてるしもっとクールな怪獣デザインを出すぜ!お前らもこの方が良いだろ!」と、恐竜映画に怪獣という土足で上がり込んいると見られても仕方なくないですかこれ。
ミュータドンは本当になんだったんでしょうか、普通にラプトルに追っかけられたかった以上の感想がないです。特に飛んで脅威になりまくったこともないし。
登場に大した意味がないのなら普通の恐竜がよかった。ここもまた、生きている恐竜への興味薄いんだろうなって感触に繋がってくる。
あとこれはワールド1以降ずっと思っているんですが、恐竜の攻撃を人間が直接避けるアクションしちゃうのは本当にやめてほしいです。
今作もケツァルコアトルスの攻撃を割と人間アクションで避けちゃってて嫌でした。
人間にはパニクってバタつきまくりながら立ち回りでかろうじて間接的に避ける、以外のことは全くできない無力さでいてほしいと思います。で、割と食われる。パークシリーズのとても好きなところです。
過去と同じものが見たいのであれば過去作を見てろって話ですし、新しいアプローチを真っ向からは否定したくはありません。実際今回はかなりハラハラできたわけだし4D楽しかったし、シリーズが完全に死ぬよりよっぽどいいし。
シナリオが雑とか、主役の吹き替えが久しぶりにマジでキツいと感じたとか、そういうのもまあいいんです。
恐竜へのリスペクトが、生物への愛と興味のある描き方があれば。
それが薄く感じられたので、ジュラシックシリーズの新作として見るとちょっとキツかったです。
1作限りの尖った作品なら良いかなと後で思えそうなので、次回作は監督変えてほしい。
とにかくまあ、新しいスピノ見られて嬉しかったです。
