IT’S NOT ME イッツ・ノット・ミーのレビュー・感想・評価
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カラックスらしい夢と記憶の万華鏡のような中編作
42分間をカラックスらしい夢と記憶が縦横無尽に駆け抜けていく。「今どこにいる?」という問いから全てが始動したという本作。大多数にとってほんの一言で事足りる答えを、カラックスは根源まで突き詰め、内面を泳ぐように探究し、彼が生きてきた時代、世界、さらには映画のまばたきにまで思いを馳せる。その語り口は全く高飛車ではなく、遠くを望んでいるかと思えばごく身近な何かを見つめる、もしくは両者を同時に行っているかのような不可思議なリズムとタッチで貫かれている。溢れるほどの情報量のモンタージュも、決して意味不明だったり、難解だったり、哲学的すぎることはない。独白録でありながら独善的にならず、42分間きちんと娯楽作として観る者を刺激し、楽しませる。それでいて心に煌めきを遺す。おなじみの”あの人”もやっぱり登場する。全ては起きながら見る夢のよう。カラックスの紡ぐ夢をこれからも見続けたい。そう強く感じる中編作だ。
5月のファーストデーラスト作品
ぼんやり
映画監督の究極の幸福
ゴダールが晩年は、観客の精神を試すが如くな、メンタルインタレーション的作品を提示し続けた。映像作家として、『自分は何者か?』を観客に問いかけ、宣言する行為を、自由気儘にイメージの洪水によって追求してきた。そして、それを支えるパトロンがい続けた、幸せな生涯だったろう。そんな理想的な作品発表は、近年ではアルノー・デプレシャン監督の「映画を愛する君へ」が記憶に新しい。そこで本作のレオス・カラックス監督作品である。これまたイメージが、大噴火の溶岩のように迸り出る(観客置いてけ堀=独りよがり)の、映像と音楽のコラージュによる自慰的快楽の追求。それも良いだろう。映画監督として、理想的な境地に達しているのだから。この42分間に、きちんと向き合って、付き合ってやろうじゃないか。という心の豊かさを大いに発揮した覚悟を強いられる作品である。
脳内をビジュアル化した実験作
カラックス監督の夢か、走馬灯か……
監督の脳内をビジュアル化する実験っぽい。
各映画サイトのあらすじ&解説の文にあるように、展覧会の代わりに製作された「記憶と思考をコラージュしたセルフポートレート」がしっくりくる説明ではある。
新鮮かつ斬新な作りで、万華鏡のように展開する映像美に驚きはあるが、既視感もあって手放しでほめられず。
後期ゴダール作品の影響に加え、思い出したのはデニス・ホッパー監督の『イージー・ライダー』LSDによる幻視表現。
自分は1度もやったことがないから確信的には言えないけど、麻薬・シンナー・大麻などドラッグで生じる幻ってこんな感じなのかもしれないと想像させる。
『アネット』『TOKYO!』『ホーリー・モーターズ』などカラックス監督過去作を観続けていて、細かい部分を覚えている人にはいいと思うのですが、初心者にはハードル高すぎてお勧めできないかなと。
一人称視点と三人称視点の間でさまよう「自分」の定義
何度も観たい走馬灯
一瞬、カラックスが死ぬ前に観る走馬灯はこんな感じか?と思って、ふと我に返る。いやいやまだ死んでもらっては困る。老人になる前に走馬灯の予行演習をしておくのも悪くない。
カラックスも歳をとり娘という守るべき存在もできたし、ここらで今までの作品を思い出しながら頭の中の映像を振り返るのもいいだろう。
走る娘がサメに襲われてパパが助けてくれないという妄想、想像に対して、娘の頭ののイマジネーションに対しては娘が監督だという。
そうか!誰もが監督になり得るんだと気付かされる。
世界を見つめる目がカメラだ。撮影監督も、映画監督も自分だ。
ありとあらゆる情報が入ってくる時代、瞬きする暇もない映像がたれ流されている。
失明しないためにはまばたきの回数が大事だ。
この映画はまばたきだったのか!なるほど!
まばたきして見えるサブリミナルの中の1秒のリンゴをみんなで共有しよう。
わたしも10代の多感な時期にカラックスの映像と出会い、とんがったり悩んだり。ドニ・ラヴァンやジュリエット・ビノシュと一緒に疾走してきたよな。
ここらでまばたきが必要なんだ。
一瞬、過去と今をコラージュさせながら振り返ろう。
デヴィッド・ボウイのこともちゃんと忘れないぞ!いつまでもその音楽とともに、まだまだ走らないと。
これからも時々まばたきは必要だ。
映画館で観て、みんなでリンゴを共有するのも素敵だが、所有したくなる映画だ。
リビングで酒飲みながらぼーっと観るのが最高。リビングで垂れ流して友達と眺めるにも素敵な額縁となる。
この映画のような走馬灯を観ながら私もいつか死んでいくのかもしれない。
できるだけ素敵な走馬灯が現れるようにこの先の人生と世界を充実させていかねばならない。
いやー。とにかくいいものを観た。
みんな!いい夢みろよ。あばよ!
半ば予想通りの─
詩的で私的なインスタレーション
監督のコアなフォロワーだけが理解できる映画。映像美だけでも楽しめるかと思った私が悪かったです。
エッセイ的コラージュ
まばたきする度に目を漱げ
『ホーリー・モーターズ』のレオス・カラックス監督が自作のフッテージを散りばめつつ、家族や映画、自身の子などに向けた思いを綴っていく自叙伝的作品。元々は美術館向けに制作していた作品というだけあって、全編とにかくアーティスティック。
まず言えるのは、カラックスの作品を未見だったり、彼のパーソナルな面を知らない人は理解するのが難しいという事。かといって本作だけで彼の全てが分かるわけではないし、やはり彼のフィルモグラフィも併せて観る方がベターだろう。かく言う自分もそんなにカラックスを知っているわけではない。ただ、彼がいかにデヴィッド・ボウイを敬愛していたかが分かる。もっとも音楽使用許諾は一番大変だったとか。
ラストの「まばたき」のメッセージは小津安二郎の言葉を引用したものだが、目まぐるしく動く今を、我々はしっかりと見る事が出来ているのか?というカラックスの提言と受け取った。
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