劇場公開日 2025年9月19日

ファンファーレ!ふたつの音 : インタビュー

2025年9月20日更新
エマニュエル・クールコル監督
エマニュエル・クールコル監督

フランスで観客の口コミから広がり、260万人動員の大ヒットを記録した「ファンファーレ!ふたつの音」が9月19日日本公開を迎える。ドナーを必要とする重い病の宣告をきっかけに、生き別れた弟の存在を知るスター指揮者。地元の学食で働きながら、吹奏楽団の活動を唯一の楽しみに暮らす男のもとに、兄と名乗る有名人が現れる――運命の再会を果たした兄弟が、さまざまな音楽とともに未来へと歩き出す姿を描いた人間ドラマだ。

難病を抱える登場人物や、家族を題材とした良作、感動作は本作を含め古今東西枚挙にいとまがないが、血のつながりがなくとも、好きなことに情熱を注いだり、よりよい社会にしていくための共通課題を持った人々が集えば、強いつながりを持つことができる――人それぞれが抱える困難と、人間同士が出会うことのポジティブな化学反応をオーケストラのようにまとめ上げ、重層的に描き出したエマニュエル・クールコル監督に話を聞いた。

※本記事は作品のネタバレとなる記述があります。

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――兄弟ふたりの心温まるエピソードのみならず、現代社会ならではのシビアな問題も織り込まれていますが、年齢性別問わず誰もが感情移入できるような味わい深い作品に仕上がっています。

幅広い観客に届けたいという思いで、誰にでも見やすく、アクセスしやすい作品にするということが、私と脚本家が目標としたことの1つでした。そして同時に、作家的な映画としても完成させたいという思いもありました。ですから、フランスでの大ヒットは、私たちの予想をはるかに超えた結果だったのです。観客からも批評家からも満場一致で評価してもらえたことは予想外だったのです。そして、音楽の力や素晴らしさに目覚めた方も多くいらっしゃったようです。

そして、音楽のことはもちろん、養子縁組だったり、あるいは病気であっても、何かしらのテーマが、個人的な共感として見ている人の心に引っかかったようです。こんな風に、脚本執筆時にひとりでも多くの人の心に届くよう配慮をしました。

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――兄のティボが育ったのは日本人も良く知る首都パリですが、弟のジミーが住むのはフランス北部の小さな街ですね。日本でもヒットした「パリタクシー」のダニー・ブーンの監督・主演作で、フランス北部の人々の人情を描いた「ようこそ、シュティの国へ」も思い出しました。舞台設定について教えてください。

ジミーが住むワランクールは、フランス北部の旧炭田地帯をイメージした架空の街です。実際は、フランス北部のラレンという街で撮影しました。ラレンでは、フランスで最も多くの800ほどの吹奏楽団が今なお活動を続けており、吹奏楽団が市民の生活の一部のようになっています。また、フランス北部は、パリや南部と比較すると経済的に貧しい――この言い方には語弊がありますが――かつて産業が発達していた地域だったのにもかかわらず、時代の流れで衰退し、今は失業や貧困問題が発生しており、だからこそ市民の連帯感が非常に強い地域です。また、住民は外から訪れた人をもてなす心や、何かを一緒にシェアする、そんな気持ちを持った人たちが多い地区でもあります。

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吹奏楽団を含め、多くの現地の方々に参加していただいた今回の撮影で、人間的な温かみを感じる住民との出会いがとても幸せでした。それはとても良い意味でのサプライズで、この映画はそういうことに多くを救われました。映画の中で起こるようなことを、僕自身が現実で体験する、そんな撮影でした。フランスのほかの地方では、こうはいかないと思います。

映画的なことでは、レンガ作りの建物が並ぶ元炭鉱町が舞台であり、物語はイギリス的なテーマであると思います。フランスの映画監督は社会派コメディが下手だと思われていますが、僕は「ブラス!」のようにイギリスの映画が得意とするこのジャンルをフランスでやってみたいと思っていました。今回のヒットで少しは成功したのかな、と実感しています。

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――弟ジミー役のピエール・ロタンを主演として念頭に置き、脚本を書いたそうですね。近年は世界的な人気を誇るフランソワ・オゾン監督作でも活躍する、ロタンの魅力について教えてください。

何をおいても彼の存在感です。スクリーンを占領してしまうような存在感があります。カメラを回すと、彼が何もしなくても何かが起こる、そういう俳優は稀で、私たち監督を魅了するのです。俳優としても、非常に的確な演技をしてくれます。わかっていないのにわかっているふりをするようなことはなく、非常に正直。一枚岩のようなところがあります。そして、自分を出し惜しむことをしません。一挙に自分自身を出して、下手なトリックなどは持ちません。彼そのものがカメラの前で存在するのです。非常に本能的、直感的な人であると同時に、役柄を真剣に考えてくれる人。映画俳優として彼はもっと大物になるでしょうし、フランス映画で重要な役割を果たすだろうと思っています。

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――そんなピエール・ロタンと兄弟を演じる兄役のバンジャマン・ラベルネはどのようにキャスティングしたのでしょうか。

実は当初の脚本では、ジミーが兄、ティボが弟だったんです。しかし、なかなかティボを体現してくれる俳優が見つからず、キャスティングは難航しました。そして、ティボは弟ではなく、兄にしようと決めた時点で、ピエール・ロタンより年長のバンジャマン・ラベルネが浮上したわけです。本当に今考えても最高の選択だったと思います。2人は俳優としても意気投合し、ものすごく息が合っていましたね。彼らにとっても素晴らしい出会いだったのではないでしょうか。

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――映画のラストは、観た人同士で何かを語りたくなるような、素晴らしい余韻を残す終わり方でした。脚本構想段階で、あのラストにするつもりだったのか、書き進めていくうちにああいうラストにされたのか、教えてください。

あの終わり方にすることは割と早い段階で決めていました。もちろん、共同脚本家といろいろと話し合いをしましたが、最後は一体感を持って終わる。そう私たちは決めていました。兄弟の一体感、2つの楽団の一体感、それが音楽によってもたらされる――そういう終わりにするということが重要で、その楽曲がラヴェルのボレロであることにより、一体感が生み出されたのです。ただ、すべてを同期させないといけませんから、撮影は大変でした。編集でもかなり苦労しましたね。

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