俺ではない炎上のレビュー・感想・評価
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自分は悪くないと思う人ほど、あなたが悪いと思われているのかもしれません
2025.9.26 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(125分、G)
原作は浅倉秋成の同名小説
突然ネット上で殺人犯に仕立てられた中年を描いたミステリー&スリラー映画
監督は山田篤宏
脚本は林民夫
物語は、日本のとある場所にある大善市(ロケ地は静岡県浜松市)
大帝ハウスの営業部長である山縣泰介(阿部寛)は、部下の野井(板垣俊之)とともにあるトランクルームの内覧に訪れていた
シーケンLIVEという会社が手掛けているトランクルームは、簡素な作りをしているショールームだったが、コンセプトをリゾートとして、生活できるように全てが設置されていた
泰介は自分の思うままに振る舞い、相手の手がけたパンフレットのコピーの手直しなどを要求していた
だが、担当の青江(長尾謙杜)は明確な態度を示さず、泰介はそれが気になっていた
その後、ファミレスで野井と「最近の若者は」という話題になり、ジェネレーションギャップについての苦言をしていると、突然店内にいた若者に写真を撮られてしまう
気味が悪いと思っていた泰介だったが、今度は駐車場でも見知らぬ主婦がスマホのカメラを向けてきた
社に戻った泰介は、そこでも社員から怪訝な顔をされていて、さらに所長(信太昌之)から「自宅待機」を命じられてしまった
その理由は、ネット上で泰介が殺人犯として殺害を投稿していることが拡散されていて、過去の投稿から泰介の身元が特定されていたからだった
投稿に映り込んだものから会社を特定され、背景から場所がネット民にバラされてしまい、個人情報も晒されていた
泰介はアカウントを作った記憶もなく、事件に関しても身に覚えがなかった
また、自宅にも不審な若者が現れていて、やむを得ずに警察に通報をすることになる
訪れた警官からもネットで炎上になっていることを言われ、泰介はやむを得ずにビジネスホテルに逃げ込むしかなかったのである
映画では、ある殺害現場の投稿がなされ、それが大学生の住吉(藤原大佑)によって「リツイート」されて拡散されていた
そんな彼を見つけた大学生の砂倉(芦田愛菜)は彼に近づいて、投稿の事件について調べを進めていく
そして、過去パートとはわからないように、泰介の娘・夏実(丸山明紗)とその友達えばたん(味元耀之)とのやりとりが描かれていた
後半になって、夏実=砂倉であり、えばたん=青江ということがわかるのだが、この演出はとてもうまかったと思う
一応は2013年パートと現代パートということが画面上からはわかるので、察しの良い人には「過去パート」であることがわかるかもしれない
物語は、「謝れない現代人」をテーマにしていて、「身に覚えのないことも実は遠因が自分にある」というテイストで描かれている
とは言え、このような犯罪にリアルで巻き込まれることはほぼないと思う
約10年にも及ぶ計画的な犯行のように思えるが、最終的に事件の解決への糸口となるのがジェネレーションギャップというところが面白い
ら抜き言葉とか、肯定語などの使い方が世代によって違うのだが、それらが捜査の進展へと繋がっていく
それでも、実は「娘が絡んでいるかもしれないから妻(母親)は供述を曲げていた」というものがあって、そこで夫婦間の10年間というものが露見するのも面白い
恨みというものは自然と積み重なっているもので、そこに「自分は正しい」と思い込む若者の台頭によって巻き込まれてしまう
とは言え、誰もが「悪くない」と思っているところがあって、それは「謝罪すると負け」みたいな風潮が作り上げているからなのかもしれない
ラストでは、自分のリツイートによって被害者となった泰介と対面する住吉が描かれるのだが、彼は謝罪をツイートするものの「悪いのは僕かもしれない」という「いまだに自分を守ろうとする言葉」が綴られている
謝れない人のマインドを象徴していて、本質というものは変わらないのだなあと思った
いずれにせよ、ネット上で巻き起こる正義感の成れの果てを描いているのだが、そういったものは実はネット上だけではないことも描かれている
警察の取り調べの際に「抱えてきた恨み」を晴らそうとする部下もいたり、謝らない人は反省もしないという風に描かれている
それらは「謝ること」「非を認めること」がアイデンティティを崩壊させるかのような風潮があるからなのだろう
実際には一過性で喉元過ぎればすぐ忘れられるものもあるし、死ぬまで許さない人もいるだろう
そのような人は「許さないことでアイデンティティを保つ」という特性があるので、それを自身が引き摺る意味もない
自省や謝罪に関しては、起こしたことの問題の大きさに比例すると思うが、そこに心がなければ、取り繕うだけになるというのは世の中の常なのだろう
なので、一部の案件を除いて、心の底から相手(被害者)に対する誠意を見せることと、時間の経過なしには「許さないマインド」が消えることもないのかな、と思った
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