劇場公開日 2025年4月19日

「問われているのは我々の民主主義、地方自治である。」太陽(ティダ)の運命 あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0問われているのは我々の民主主義、地方自治である。

2025年5月25日
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鑑賞方法:映画館

RBC琉球放送とTBSの制作による優れたドキュメンタリー映画である。129分という長尺ではあるがしっかりと細部まで練り込まれ山根基世さんのナレーションも安定感がある。
タイトルの「太陽(ティーダ)」は沖縄ではリーダーの意味もあるようで本土返還後の知事たちの姿を描く。とはいえ普天間基地問題が主題となるので前半は4代目知事の大田昌秀、後半は7代目知事の翁長雄志の姿が中心となる。(8人の知事のなかでは最も実務家であったと思われる稲嶺恵一がたびたび登場して客観的なコメントを述べるところが面白い)
大田と翁長は政敵というべき関係であったが、最終的には辺野古基地の建設反対という共通の立場にたっていく。これはもちろん艦砲射撃、地上戦という戦争体験が原点にあり、土地の強制収用、米軍による後を絶たない事故や犯罪、環境汚染などを受けた県民の民意を反映したものである。
映画を観ていて感じたのは、大田が知事だった1990年代と、翁長が知事だった2010年代では明らかに国政も本土の世論も変容しているということである。劣化しているといって良い。
国政でいえば、大田の時代の橋本総理や野中官房長官は現実をみつめ沖縄の気持ちを汲んで妥協点を見いだそうと努力をしていたが、翁長の時代の国政担当者たちは「辺野古は唯一の解決策」との見解を機械的に繰り返し埋め立てを「粛々と」進めるだけであり話し合い自体が成り立っていない印象が強い。また沖縄を除く世論もSNSを中心に辺野古埋め立てに反対するものは極左、反日であるとの言説が目立つようになってきている。そこまでいかないにしても沖縄県による工事差し止めの手段が全て封じられてしまった今、既に終わった問題として捉えている者もいる。
沖縄は日本である。沖縄の民意が損なわれている、そして沖縄の地方自治が顧みられないということは、日本の民主主義ないしは主権が損なわれていることになる。これは現在もなんら問題としては変わっておらず存在している。自明の事実ではあるがこの映画はそこを徹底的に見せてくれた。

あんちゃん