「異形の世界に宿る信頼の物語」ChaO 日本年金機構さんの映画レビュー(感想・評価)
異形の世界に宿る信頼の物語
鑑賞中は、中国の制作会社が関わっているのだろうと思いながら観ていた。舞台が近未来の上海で、街並みや文化的モチーフに中華圏らしさが色濃く漂っていたからだ。しかし、調べてみると、これはSTUDIO4℃が7年かけて作り上げた、資本も制作も純粋な国産アニメーションだった。この意外な事実を知ると、作品の意図や完成度の見え方が変わってくる。
物語は、人間と人魚が共存する近未来の上海を舞台に、平凡な青年ステファンと人魚の姫チャオの恋を描く。特筆すべきはその人物造形で、2頭身から写実的まで極端に異なるプロポーションのキャラクターが同じ画面に存在する。一般的なアニメなら避ける不統一をあえて採用することで、多様な存在が共に暮らす世界を視覚的に体現している。
人魚が陸上で人間の姿に変身できる条件は「深い信頼」。それは単なる好意ではなく、相手の弱さや危うさも含めて受け入れる複雑な感情であり、物語の核を成している。ChaOの父が人間に懐疑的な態度を見せながらも変身できる描写は、このテーマの奥行きを示す好例と理解。
ステファンの誕生日にチャオがロボットで暴走する場面は唐突にも見えるが、彼女の感情の爆発と“異質性”を強烈に印象づける転機となっている。また、幼い頃の約束を覚えているヒロインという王道モチーフも、変身設定と絡めることで新たな意味を帯びている。
奇抜なビジュアル、実験的な造形、そして温かい物語。見終わったあと心に残るのは、異形の世界の迫力ではなく、異なる存在が互いを信じ合う温もりだ。国産アニメーションの懐の深さを改めて感じさせる一本。
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