「ラテン・アメリカの光と闇」ボサノヴァ 撃たれたピアニスト 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
ラテン・アメリカの光と闇
ボサノヴァとジャズとの架け橋となったサンバジャズを支えたブラジルの天才ピアニスト、テノーリオ・ジュニオールを襲ったあまりにも酷い悲劇を関係者のインタヴューを中心に描いたアニメーション映画。
前半は、ボサノヴァの初期、彼が如何に有望な新星ピアニストであったのかが綴られる。ところが後半になると、かなり社会派的な要素が強くなる。サンバのようなブラジルの音楽と、ジャズがどのように結びついて、欧米や日本でも、人気を集めたボサノヴァが出てきたのか知りたかったのだが、後半は主題がテノーリオを襲った悲劇に移った印象。
テノーリオが拉致され、酷い目に遭ったのは、1976年3月、演奏旅行で訪れていた隣国アルゼンチンのブエノスアイレス、妊娠中の妻と4人の子どもたちを残して。当時は、軍事政権によるクーデターが起こる直前だった。彼がサンバジャズの分野で活躍し、有望株として注目されたのは、1962年から1966年だったから、少し間が空いているのかな。
誰に聞いても、テノーリオが政治的な活動をしていたとは思えない。いくら、口髭をたくわえ、長髪であったとはいえ、深夜、外出したくらいで、なぜ拉致され、釈放されることなく、悲劇につながってしまったのだろう。
彼が知的であったことは、皆口をそろえていた。ブラジルはポルトガル語、アルゼンチンはスペイン語だけど、何不自由なかったし、欧米のジャズ・ミュージシャンとは英語で会話できた。ただ、ラテン・アメリカの人たちは、ポジティブな誉め言葉しか言わないが、ちょっとだけ気になる点があった。彼は、途中で演奏をやめ、いなくなることがあった。しかも、皮肉屋。もしかすると、彼には、少しだけ精神の闇があり、それを反映して反社会的な、アナーキーなところがあることを見抜かれてしまったのでは。
それにしても、ラテン・アメリカの軍事政権には、ある種の連携があり、その背後には、米国のCIAがいたとか、自分のあまりの知識のなさに思いを致さざるを得なかった。