劇場公開日 2025年8月1日

「生きること、そして忘れないこと」長崎 閃光の影で おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 生きること、そして忘れないこと

2025年8月2日
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鑑賞方法:映画館

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■ 作品情報
監督・共同脚本は長崎出身の被爆3世である松本准平。共同脚本に保木本佳子。原案は日本赤十字社長崎県支部の手記『閃光の影で-原爆被爆者救護赤十字看護婦の手記-』。主演は菊池日菜子、小野花梨、川床明日香。主題歌は福山雅治プロデュース・ディレクションの「クスノキ -閃光の影で-」で、主演の3人が歌唱している。語りは長崎で被爆した美輪明宏が担当している。

■ ストーリー
1945年夏、太平洋戦争下の日本。看護学生の田中スミ、大野アツ子、岩永ミサヲは、空襲による休校のため故郷の長崎に帰郷し、家族や友人との平穏な日々を過ごしていた。しかし、1945年8月9日午前11時2分、長崎市に原子爆弾が投下され、その日常は一瞬にして崩壊する。街は廃墟と化し、三人は未熟な看護学生ながらも、目の前の被爆者たちの救護に奔走する。救うことのできない多くの命が失われていく悲惨な状況の中で、彼女たちは献身的な看護活動を続ける。それぞれが原爆と向き合い、苦しみを乗り越え、そこから再び前へと進む姿が描かれる。

■ 感想
三人の看護学生たちの切実な感情の揺れ動きが、心に響きます。まだ未熟な学生の彼女たちが、突然過酷な被爆現場に放り込まれ、目の前で次々と命が失われていく現実に直面します。自身の家族の安否すらわからない状況で、ただ目の前の被爆者に向き合うことを余儀なくされる姿は、観ている者の胸を強く締め付けます。

献身的な看護もむなしく、多くの命が失われる中で、「自分たちの看護に意味はあるのだろうか」と自問自答し、苦悩する姿は本当に切ないです。一瞬にして大切なものを奪った敵への憎しみをたぎらせる者、それでもこの惨状を生み出した敵を「許す」ことで前に進もうとする者、どうすることもできない自身の無力さに打ちひしがれる者。三者三様の感情が痛いほど伝わってきて、彼女たちの誰の気持ちにも深く共感します。

広島に比べて、長崎の原爆被害が取り上げられる機会が少ないと感じていたので、本作の存在意義は非常に大きいと思います。特に、主に三人の看護学生にスポットを当てることで、当時の少女たちが戦争をどのように捉え、経験したのかが鮮明に伝わってきます。もちろん、長崎の被爆の全体像を捉えるにはやや限定的で、生々しい描写が控えめな印象も受けますが、それがかえって、多感な少女たちの視点から戦争を描くという本作の誠実さを際立たせているように感じます。

原爆によって大切なものを奪われた少女たちが、その現実とどう向き合い、どう受け止めることで、そこから再び前に進んでいくのか。その過程が丹念に描かれており、「生きること、そして忘れないこと」が生かされた者の使命であるというメッセージが強く伝わってきます。本作は、まさにその使命を果たすために作られたのだと思います。

主演の菊池日菜子さんをはじめ、小野花梨さん、川床明日香さんの演技は本当にすばらしかったです。特に小野花梨さんの渾身の演技は、感情がダイレクトに伝わってきて、胸を強く打ちます。長崎ゆかりのキャストやスタッフを多く起用している点も、作品への強い思いが感じられ、感銘を受けます。ただ、残念だったのは、映画館の音響設備のせいか、あるいは長崎弁によるものか、不明瞭なセリフが多く、聞き取りにくい場面が多々あったことです。その点が、物語への没入感を削いでしまったのが惜しまれます。

おじゃる
Mさんのコメント
2025年8月4日

私は「遠いところ」を見て以来、工藤将亮監督をとても買っていて、彼に潤沢なお金と充分な時間を与えて、しっかりとした平和に関する映画を撮って欲しいと思っています。

M
Mさんのコメント
2025年8月4日

はい。戦争や原爆への入口として、あまり悲惨な場面を入れるより、本作のような表現の方が受け入れやすいと思います。
本作のような作品も、「野火」のような作品も、いろいろな作品が作り続けられることが大切だと感じています。

M
おじゃるさんのコメント
2025年8月3日

Mさん、共感&コメントありがとうございます

おっしゃりたいこと、すごくよくわかります。
原爆のもたらした惨状をリアルな映像で生々しく描き、人々の負った悲しみや苦しみや怒りを切実に伝えてほしいと、私も思いました。予算の都合もあったのかもしれませんが、描写はかなり控えめだったと思います。

でも、本作で描きたかったのは戦争の悲惨さではなく、三人の少女たちがその後の人生を怒りや憎しみに捧げることなく、人として正しく生きるとはどういうことなのかを模索し続ける姿だったのではないかと思います。あの状況下でも彼女たちの衣服が汚れずに清潔に保たれていたのは、彼女たちの汚れなき心の象徴だったのではないかと思います。私は、こんなふうに好意的に捉えることにしました。

おじゃる
Mさんのコメント
2025年8月2日

私は遠慮がちな被爆の描写に物足りなさを感じました。
ただ、この映画の価値はそことは別の所にあるということはよくわかりました。
ただ、もっと徹底的に、実際にあっただろう場面をしっかり時間と金をかけて作ってあればなあ、という気持ちは残りました。
とはいえ、この映画を作ってくださったスタッフの皆様には本当に頭が下がります。

M