劇場公開日 2025年4月11日

「土砂降りの雨の中展開される、中盤の激しいアクションが見もの」ベテラン 凶悪犯罪捜査班 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0土砂降りの雨の中展開される、中盤の激しいアクションが見もの

2025年4月13日
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【イントロダクション】
法では裁かれなかった悪を私刑による制裁によって葬り去る連続殺人犯に、広域捜査隊のベテラン刑事達が挑む姿を描く。韓国で歴代5位の観客動員数(2025年4月現在)を叩き出した『ベテラン』(2015)の続編。
主人公の熱血刑事ソ・ドチョルをファン・ジョンミンが続投。新たに捜査隊に加わる新人刑事パク・ソヌを若手スター、チョン・ヘインが演じる。監督・脚本は、前作に引き続きリュ・スンワン。

【ストーリー】
広域捜査隊のベテラン刑事、ソ・ドチョルとチームメンバーの刑事達は、違法賭博事件を追っていた。賭場を経営するオーナー達を逮捕する為、紅一点ミス・ボンに潜入捜査を行わせていたが、彼女の正体が暴かれた事で現場は大混乱。いつもの調子でドタバタ騒ぎを繰り広げ、犯人を確保した。

一方、巷では法で裁かれなかった、または犯した罪に対して十分な刑罰を受けずに釈放された悪人が、事件の被害者と同じ死因で次々と殺害されるという事件が発生していた。不条理な司法制度に憤っていた世間は、私刑によって悪に裁きを下す犯人を、善と悪を裁く伝説上の生き物”ヘチ”と呼び、正義のヒーローと持て囃すようになる。
監視システムの普及した現代社会で連続殺人などあってはならないと、広域捜査隊のメンバーは至急犯人を逮捕するよう命じられる。

ドチョルの私生活では、息子が高校で暴力トラブルを起こしたと聞かされる。それぞれの保護者と教師による話し合いの場で、ドチョルは被害者である息子に転校の話が持ち出された事に憤る。

そんな中、かつて広域捜査隊のユン刑事を刺し、駐車場のトラブルから誤って妊婦を殺害してしまったチョン元所長が、僅か3年の刑期を終えて出所してくる事になる。彼の処刑をヘチに熱望する世間から守るため、メンバーは彼の身辺警護を任される。
警護当日、過激なネット配信者が高評価と投げ銭欲しさにチョンを襲撃する。しかし、新人刑事パク・ソヌがこれを鎮圧。パク刑事の実力に惚れ込んだドチョルは、彼を捜査隊のメンバーに加える。

かつてドチョルからシンジン財閥の御曹司チョ・テオが起こした事件の情報提供を受けていたパク記者は、会社をクビになり人気ネット配信者として生計を立てていた。連続殺人犯に“ヘチ”という通称を与えたのも彼である。
そんなパク記者が、ヘチと直接会うという謳い文句でライブ配信を行う。現場に駆け付けたメンバーは、ヘチと思われる人物を追跡するが、パク刑事との揉み合いの末、階段から落下し意識不明の重体となってしまう。

実は、ライブ配信に訪れたヘチは、パク記者による仕込みであり、連続殺人犯とは無関係の人物だった。事件は解決していないと、再び捜査を開始するドチョル。

そして、再びヘチによる犯行と思われる暴走族12人の轢き逃げ殺害事件が起こる。かつて恋人を暴走族の起こした事故で殺されたミン・ガンフンが容疑者として浮上。メンバーは彼を捕える為、薬物依存者が屯する路地街へと向かうが…。

【感想】
率直な感想としては、「前作の方が良かった」である。
前作では、実際に起きた財閥の御曹司による不祥事を下敷きにストーリーが構築されており、権力者に対する疑念や憎しみに説得力が溢れていた。また、そうした丁寧な前振りからのクライマックスでの形勢逆転も見事なものだった。

対する本作は、早い話が『ダーティハリー2』(1973)である。確かに、司法の力が及ばず、それによって被害者や遺族が報われない事例は世界的に見ても共通し、世間の怒りを集めるものである。だからこそ、日本では漫画『DEATH NOTE』が社会現象となる大ヒットを記録した。
裁かれない悪に対する報復は、誰しもが一度は抱き、共感出来るものである。しかし、一線を越えてしまえば、結局は殺人犯であり犯罪者。ドチョルもまた、容疑者に対して怒りや殺意を露わにする台詞を度々発するが、実際には手を掛けたりはしない。それは、刑事として悪に正義の鉄槌を下す、彼のプライドだ。

ヘチことパク・ソヌ刑事は、ドチョルのシンジン財閥事件をキッカケに刑事となり、彼に心酔している。しかし、パクは行き過ぎた正義感から一線を越え、自分が逃れる為には容赦なく他人に犠牲を強いる。それは、一線の内側で踏み止まりながら生きるドチョルにとっては許せないもの。だからこそ、ドチョルはパクを止めなければならないのだ。

こうした、“正義とは何か?”という問いは、普遍的かつ力強さを持つメッセージだ。しかし、本作はそうしたメッセージを伝える上でのストーリーテリングを間違ってしまったように思う。『ダーティハリー2』から半世紀以上経ちながら、ストーリーとしてやっている事が、大雑把に言ってしまえば変わっていないのである。

序盤から真犯人が明確な中、誤った対象を犯人として追うドチョル達の姿にはもどかしさを覚えるし、観客が真犯人の正体を知っている中でドチョルが得意気に推理を披露する様は、少々マヌケにも映る。
出来れば、パク刑事には怪しいと分かりつつもクライマックスまで正体を隠してほしかったし、本来発覚後に問題となるはずの犯行時のアリバイや犯行手口を、ストーリーの勢いで特に触れないまま流してほしくはなかった。

前作以上に、アクションシーンの迫力は抜群。特に、中盤の土砂降りの雨の中で行われる格闘シーンは、間違いなく本作の白眉。絶えず水溜りの地面に身体を打ち付け、水飛沫を上げて滑り込み、殴り合うシーンの臨場感・迫力が素晴らしい。
だからこそ、この最高のシーンは偽物として仕立て上げられたガンフンとではなく、互いの正義を掲げて戦うドチョルとパク刑事という構図で存分に魅せてほしかった。

そんな思いもあって、クライマックスでパクと対峙するシーンは、残念ながらパワーダウンしてしまった印象は拭えない。
縛り付けて捉えたパク記者を逃がさない為、彼の座る椅子の周囲に割れたガラス瓶を散乱させるという御膳立てと活かし方は見事だったが、それ以外には特筆すべきアクションが見受けられなかった。

また、序盤のギャグ満載の賭博グループ確保シーンは、前作以上に益々日本の『踊る大捜査線』シリーズを彷彿とさせる。お馴染みのキャラクターをおさらいするという意味では良いのだが、少々ギャグに振り切ってスベっている印象もあった。

ヘチことパク・ソヌ刑事役のチョン・ヘインの狂気に満ちた熱演が素晴らしい。特に、意思疎通が不可能そうなハイライトを失った目の演技は、完全に「イっちゃってる側」のそれである。三角絞めを得意としたアクションシーンも良く、前作のテオ同様、ドチョルに「アイツは喧嘩が強い」と言わしめる実力も見事。
しかし、パク刑事というキャラクターには、掘り下げ不足感が大きい。ドチョルを心酔する理由も、彼の過去に不条理に苦しめられた経験があるのかと思えば、特に語られる様子はない。正義を執行しつつ、自分が逃れる為には容赦なく他人に犠牲を強いる姿、一切のバックボーンが語られない様子には、サイコパスなシリアルキラーという印象を受ける。
もしかすると、リュ監督は観客がパク刑事に感情移入しないよう、彼のキャラクターを掘り下げる事を避けたのかもしれないが。

【信じたいものを信じる人間の弱さ】
本作は、冤罪についても扱っている。保険金目当てで夫殺しの疑いを掛けられた未亡人は、実際には無実であり、保険は夫が生前内緒で入っていたもの。また、受け取った金額も、報道されていた金額より遥かに少ない。

こうした冤罪事件について、パク刑事はドチョルを罠に掛けつつ「人は信じたいものを信じる」と言う。扇動家やメディアによる誤情報が、時に個人の人権や生活を侵害するというのも、またリアルな問題である。

だからこそ、我々は一線を越えてはならないのだ。

【エンドクレジット後の映像に見る、更なる問いかけ】
エンドクレジット後の映像で、終身刑を宣告されたパクが、移送中に逃走した事がニュースで明かされる。
官僚室に呼び出されたカン総警は、コメディばりの土下座を披露し、リュ監督の過去作『モガディシュ 脱出までの14日間』(2021)に出演していたホ・ジュノがカメオ出演して叱責する。

一見すると、単なるオマケ映像に過ぎないように思われる。しかし、脱走したパクは私刑によって民衆のヒーローとなっていた事も確かで、世の中には未だ司法の手が及ばない悪が数多く存在するという不条理があるのも確かである。

だからこそ、パクが逮捕されて「めでたし」で終わるのではなく、彼が再び世に解き放たれた事を告げ、我々観客に“正義とは何か?”と問い続けるよう投げかけるのである。

単なる勧善懲悪に収まらない、韓国映画ならではの視点の鋭さが、この短いシーンに詰まっているのだ。

【総評】
韓国映画らしい世情を反映したテーマ設定、鋭いラストの問いかけ、力の入ったアクションシーンと、全体的な完成度は高い部類。

しかし、やはりドチョルの正義とパク刑事の正義のぶつかり合い、それを存分に演出する意味でも、雨の中での格闘シーンはクライマックスに持ってくるべきだった。
パク刑事のキャラクターの掘り下げも、臆することなく挑んでほしかったし、ラストの問いかけは、そうした面をしっかり描いてこそ、より一層鋭さを増したと思うので残念。

結果的に、前作には及ばずといったところ。

緋里阿 純