陽が落ちるのレビュー・感想・評価
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武家の矜持とその背後にある悲しみ
ストーリーそのものは単純で何の捻りもないが、それだけに演出と演技が光る作品。登場人物全員の心理描写が素晴らしいが、やはり特筆すべきなのが竹島由夏演じる主人公の吉乃の心理描写。三河以来の武家の奥方としての矜持と(下女への嫉妬も含めた)複雑な心理描写。これを超える映画が本年期待できるかは分からない(もし出てきたら、2025年は大豊作の年)。
思わぬご褒美、上映後の舞台挨拶
物語は、お役目をしくじり蟄居中の武家家族の最後の2日間をじっくりと見せてくれる
登場人物も必要最低限なのだが、出てくる人物に一人も無駄が無い
主役は、ちょっと頼りなくも穏やかでやさしい旗本、その妻良乃殿
彼女の夫への寄り添い方から息子、奉公人への接し方は、武家の妻そのものであり
いつも凛として厳しさと優しさに溢れていて、観る者を引き付けていく
冒頭、蟄居中の久蔵の正式な処分が「切腹」と決まったことを役目上最初に知らされた彼の旧知の親友江藤伝兵衛は、正式に本人に知らせる明日(それは切腹当日というルールというからむごいと言わざるをえない)を前に、本人に会って伝えたいと考えるがその行為がご法度であることに思い悩む。こちらも伝兵衛のご内儀が「直接会うのはご法度でも会わずに詩で伝えては」そっとアドバイスする
伝兵衛は久蔵の屋敷門の前で名も告げずに、門越しに良乃殿に詩を聞かせる
良乃殿の顔色は見る見るうちに厳しくなっていくのがわかるがそれでも決して取り乱さない
全てを悟った良乃殿がその歌を主人久蔵に伝える・・・・
残された1日を家族で大切に使う時間が持てた中で、良乃殿はうろたえる久蔵や奉公人たちを厳しく愛情こめて諫め、諭し、涙を押し殺して最後の時まで「武家の妻」としての姿勢を崩さずに貫く
涙もろい私は、伝兵衛が、親友久蔵が理不尽な切腹をしなければならないことに憤怒するところで泣き、涙をこらえて詩を門越しに読む伝兵衛とその詩を聞く良乃殿に泣き、奉公人のしげさんが即座に暇をだされて帰った実家で、病気がちの父から「最後までご恩を返してきなさい」という言葉に泣き、下男のお武家のルールの理不尽さへの恨み節を語りつつ、奥方(良乃殿)を気遣って「生き続けてください」という言葉に泣いた
ラストシーン、文字通りすべてを失った良乃殿の、物語の冒頭からずっと堪え続けていた本当の心の想いを、文字通り全身から噴出させ爆発させるあのシーンがとっても良かった
また、時代劇などではいとも簡単に「はい、切腹」という様子が描かれているが本来のその刑罰の沙汰を受けた者とその家族縁者たちの苦悩はどれほどであったかを、この映画はじっくりじわじわと我々に味わせてくれる まさに「理不尽」の一言
上映後の舞台あいさつで柿崎監督が「この映画の撮影は時間の流れ通りの完全順撮り」だったと語っておられました また、撮影に使われた旧家のあの切腹の部屋は、実際に昔切腹が執り行われた部屋なんだそうです。印象的な御門も調べれば聖地巡礼が出来るかもしれませんね。他にも前川泰之さん(江藤伝兵衛役)出合正幸さん(古田久蔵役)、そして主役の竹島由夏さん(吉乃殿役)にお会い出来、撮影の裏話に笑顔をたくさんもらいました
柿崎監督が、次は前川さん主役でこのメンバー全員参加で3.11の東日本大震災時の自衛隊員の活躍を描く映画を撮り終えているそうです。公開時期についてははまだ解禁になっていないそうですが絶対見たい!
昨今、物語の中でさえ見なくなった「凛とする」美しさに打たれた。
文政十二年とは1829年
徳川家斉の時代(文化~文政年間(1804~1831年)
家斉は贅沢三昧の生活で幕府の財政を逼迫させています。
子供が55人いたと言います。
そして4年後の1833年(天保4年)、「天保の大飢饉」が起こります。
将軍家斉の横暴が続いていた時代の理不尽な切腹の通達。
伝兵衛が久蔵に切腹を告げる和歌は
「夏の世の 夢路儚き もののふの 晴れて行方の 西の雲の端」
西の雲の端とは西方極楽浄土を指すのでしょう。
これには元歌があり
「夏の夜の 夢路はかなき 後の名を 雲井にあげよ やまほととぎす」
柴田勝家の辞世の句です。
劇中で久蔵と伝兵衛が手本としていたものだと語られます。
将軍の弓の弦を切ったことによる死罪。
お武家様はなんと惨いことをなさる。
これが百姓の感覚でしょう。
良乃は武士の妻として
◯凛とする
◯取り乱さない
◯最後の差配を行なう
◯駒之助の養子話(自分から息子を取り上げられること)にためらう夫の前で即座にそれを受け入れ礼を言う。
◯取り乱す久蔵をたしなめ、夫の前では決して泣かない。
涙を落とすのは久蔵のほうだ。
この気丈な妻が夫のため扇子腹を申し出る。
夫婦の機微とはこういうものなのだろう。
凛とする、取り乱さないことの美しさに見ているものは背筋が伸びる。
その抑えつけた悲しみを思って観客の胸はキリキリ締めつけられる。
夫はこの妻無しには、おそらく武士の誇りを保つことはできなかったに違いない。
昨今、本音をいうこと、我慢しないこと、「私」の幸せを追求することが奨励されるが、そのなかで、この理不尽さに耐えることの美しさが、果たして世界に受け入れられるのだろうか?
これを理想像にすることに抵抗を感じないだろうか?
私の理性は、このようなブラック企業の言いなりになる必要も必然も正義もない!と言うが、私の感情は、良乃の凛とした美しさに溺れてしまう。
凛とする
このような人はついぞ見かけなくなった。
物語のなかでさえ。
最後、良乃が取り乱して泣く、救いだった。
貴重な映画体験となった
だた百姓の奉公人がなぜ死ななくてはかったのか?
私には説明がつかない。
美しいと思えなかった。
ちりっと、心に残るやるせなさ
撮影の舞台となった長野で鑑賞
事前情報0で、偶然にも舞台挨拶のある日に見ることができ、前の方の席を陣取りました。
時代劇ということで、侍タイムスリッパーを想像していましたが、内容は蟄居させられてしまった武士の妻の話。
主人公の凛としたたたずまいが、とても素晴らしかった。
自分だったらどうしただろう、逃げてしまえ〜と叫びたくなってしまった。この時代に生きた人々は、理不尽にも受け入れざるをえなかったのだろう。
願わくば、ハッピーエンドが良かったな。
舞台挨拶では、撮影秘話も披露していただき、撮影時は時代劇だからなるべく和食にされていたとのこと。
お蕎麦が食べたくなりました。
お着物も着て、凛としてみたくなる、そんな映画でした。
撮影現場となった松代のマップも映画館に設置されていたので、行ってみたいと思いました。
古き良き日本映画
いやー素晴らしかった。
号泣して心が洗われました・・・
そこまで耐えねばならぬのか・・
そこまで理不尽なのか・・・
良乃の本当の感情がむき出しになるラストシーンは
観客の感情もあふれ出すタイミングになったに違いない。
まぁでもそれにしても
監督のこだわりが随所に見れた作品でした。
殺陣もないし余計なものはそぎ落とし、
シンプルなんだけど故に細かい所作や風景が美しく
セリフもすっと入ってくる・・
実際に切腹した場所を撮影で使ったり、
すべてのシーンを順撮りで撮影したりと、
役者が演じやすい環境を作り上げて
作品はより素晴らしいものになったと思います。
古き良き日本映画を
令和の現代で見れる喜びを噛みしめてました。
素晴らしい作品でした。
おもんぱかる
切腹を命じられた武士の残された時間を描くという見たことの無い時代劇というところに惹かれ、試写会に当選したのでありがたく鑑賞。
試写会はまばらなことも多いのですが、ほぼ満席だったのでこの作品のことが気になってる人が多かったんだな〜と思いました。
ちょっとした出来事がきっかけで切腹を言い渡される理不尽さもさることながら、それに対しての覚悟だったり、周りの人々の考えだったりがこれでもかと濃密に描かれるので手に汗握るような展開の連続でした。
130分とそこそこ長めの尺でしたが、じっくりと描いてくれている分、集中を切らさずに観れました。
基本的には住居周りでの出来事なので、画面が若干暗く感じてしまいました。
電気の無い時代なので仕方がないとはいえ、何をどうやっているのかというのが見づらかったのが惜しかったです。
良乃の立ち振る舞いがとても美しく、それでいて頼り甲斐のある女性で、一歩後ろを歩くような妻ではなく横に並んで夫を支えるという力強さが確かに感じられました。
切腹のシーンは分かっていてもハラハラするもので、自ら死に向かっていく、腹を切り、友に斬られと観ていてやはり辛いものがありました。
所作が最後まで素早く綺麗だったのもあり、あっという間の最後が儚く思えました。
切腹したところでズバッと終わるのかと思いきや、結構その後のエピソードが続き、良乃のその後はまだしも、多くの人物をダダッと詰め込んでしまったせいか少し胃もたれしてしまったのは残念でした。
映画終了後に舞台挨拶が行われ、監督や役者さんの今作へのこだわりだったり、撮影のあれやこれやを聞けたのは本当にありがたく、この作品もといこの時代への興味がより深くなったなと思いました。
少し自分とは相性が悪かった気もしますが、チャンバラではなく人間ドラマに重きを置いた時代劇も良いな、もっと時代劇が増えて欲しいなと思いました。
鑑賞日 3/21
鑑賞時間 18:30〜20:43
鑑賞方法 試写会にて
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