劇場公開日 2025年3月28日

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「素晴らしかった。」FEMME フェム JYARIさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0素晴らしかった。

2025年4月2日
PCから投稿

昨日観た「ベイビーガール」と導入が似ていて、驚いた。
社会的なモラルと、個人的な性嗜好は全く別に存在していて、しかしモラルを保ち心理的安全性を確保した状態でのセーファーセックスは可能ということを示した「ベイビーガール」。

それと似た題材で、しかしもっと複雑に個人の内面を表出させたのがこの「フェム」である。
終り方は「ベイビーガール」の方が好みだったが、「フェム」の方が何倍も面白かった。というか今年暫定ベスト。最高だった。
最初のパワーゲームもハラハラしたし、段々とプレストンの弱みが見えてくるのがまあ良かった。ここが「ベイビーガール」との違いなのかもね。あのインターンって、本当にオムファタールそのものって感じで、人間味なかった。本当に怖い存在。だからこそあの映画は、夫と健全な行為がラストにくるんだけど。(まあそれも家庭に帰着するというのはやや保守的だが)

フェムは、プレストンの心の闇を描いたことで、社会を描くことに成功したんだと思う。
あのプレストンでさえも、ホモソーシャルな空気に飲まれていただけだと知ったジュールズが、それでもなおプレストンに寄り添うだけでなく、自分の生を心から楽しむこと堂々と生きることを選んだのが良かった。良かったのだが、やはりそれが皮肉な結果を生む。それを見たプレストン側も痛みに気付き、傷つくのだ。二人の出会いを考えると、当然と言えば当然なのだが、どうしても社会を恨まずにはいられない。社会、というか家父長制か。

いやー、でも問題となるのはラスト。
勿論、あの皮肉な誕生日プレゼント(本物のパーカー…)は本当に切なかったし、あのパーカーこそプレストンの存在そのものだったんだ、って気づいて大変上手だなと思ったんだけどさ、やっぱりさ、ハッピーエンドを期待するじゃない……。あの、あとどれだけでも待つのでもう30分続き作ってくれませんか?という心境。もっといける気がした。
プレストンが気にしてるギャングたちの事もやや宙ぶらりんな気がしたし、ドラァグパフォーマー仲間ももうちょい活躍できそうな気がする。そしてなにより、ジュールズとプレストンは殴り合いをしたけど(それも良かったのかもしれないけど)、もっと対話が必要なんじゃないかい!?
あのオープンエンドの先には、我々が勝手に想像していいハッピーエンドがあるんだけどさ、それよりも本当に視覚的に見せてもいい希望があの物語の続きにはあるんじゃないんかい!?
やっぱりああいう形で出会ってしまった二人にそれは許されないってことなのかい……。。

まあそんな願望は置いておいて。
なにを差し引いても本当に最高な傑作でしたよ。ありがとう2025年。
わたしはもう今年けっこう満足した。

JYARI