「時代の嵐が吹きすさぶ街(by白竜)」1980 僕たちの光州事件 regencyさんの映画レビュー(感想・評価)
時代の嵐が吹きすさぶ街(by白竜)
1980年5月に韓国で起きた光州事件を市井の人から描いた作品といえば、実在の人物をモデルにした『タクシー運転手〜約束は海を越えて〜』があるが、本作は中華料理店を経営する架空の一家が主人公。軍事政権に抗議する者を「アカ」として弾圧する戒厳軍は、その矛先を一家にも向ける。そして、実はその一家の隣に住んでいる3人家族が…というのがポイント。
ここでいう「アカ」とはソ連ならぬ北朝鮮シンパを指すが、実際にデモを行い銃を手に取ったのは民主主義を掲げた学生や市民達だった。にもかかわらず、韓国では未だにアカによる陰謀説を信じている者も少なくないという。これも一種のフェイクニュースがもたらした悲劇といえる。
どこをどう切り取っても空虚しかないこの事件ゆえに、登場人物達が辿る運命も救いがなく、観ていて鬱屈する。韓国映画を評する度に添えてきた文言「観る者をダウナーな気分にさせる映画を作らせたら右に出る国無し」は、本作でも発動していた。その一方で、過去の汚点を“なかった事”にせず真正面から描ける映画製作の度量の広さも改めて垣間見た。
ただ、やっぱりそれでも繰り返し観たいとは思わない。観直したくなるならエンタメ要素を残していた『タクシー運転手』の方だし、ついでに言えば白竜の「光州City」を聴きたくなる。
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