「原作ゲーム、豪華キャスト、カンヌと、“バズる要素”の宝庫」8番出口 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
原作ゲーム、豪華キャスト、カンヌと、“バズる要素”の宝庫
【イントロダクション】
KOTAKE CREATE(コタケクイリエイト)による同名タイトルのインディーズゲームを二宮和也主演で実写映画化。不思議な駅構内に迷い込んだ男が脱出を試みる姿を描く。
監督・脚本には、映画プロデューサー、小説家、脚本家としても活躍する川村元気。その他脚本に、平瀬謙太朗。音楽に中田ヤスタカ。
【ストーリー】
地下鉄に乗って派遣先の現場に向かう男(二宮和也)は、別れる決意をした恋人(小松菜奈)から「妊娠した」という連絡を受ける。互いに子供をどうするべきか決められず、駅構内で通話を続けていると、突如圏外となってしまう。
男は無限に続く不思議な空間に囚われてしまい、同じ通路を繰り返し行き来する事になる。やがて、男はその世界のルールが記載された案内板に気付く。
・異変を見逃さないこと
・異変を見つけたら、すぐに引き返すこと
・異変が見つからなかったら、引き返さないこと
・8番出口から外に出ること
天井の「出口(Exit)8」という案内表示、壁のポスター、同じ動きで通り過ぎていくおじさん、通路にある3枚のドアetc.
男は、構内の様々な異変を探し、8番出口からの脱出を目指す。
【感想】
私は原作ゲーム未プレイ。しかし、芸人のゲーム実況やVtuberによるプレイ配信を目にした事がある為、作品としての基本ルールは押さえている状態。
だからこそ、本作の製作発表や予告編を目にした際は、「あのゲーム内容をどうやって実写化するのだろうか?」と疑問に思った。ただ、原作ゲームの内容がシンプルだからこそ、物語として成立させる際、様々な形で手を加えられるという自由度の高さがあるので、上手くやれば作品として成立するとも思っていた。
結果的に、原作ゲームの斬新なワンアイデアを組み込みつつ、物語として無難な着地を見せる作品に仕上がっていた。
第78回カンヌ国際映画祭でミッドナイト・スクリーニング部門で上映され、現地でスタンディングオベーションで迎えられたと公開前から話題となっていた事もあり、公開から3日間の興行収入は9億5,400万円を上げ、初登場第2位にランクイン。2025年公開の実写映画ナンバーワンのスタートを切った。
改めて、川村元気という作家は、“バズる企画”というものを見抜くのが上手いなと感じた。
主演の二宮和也は、流石数多くのドラマ・映画出演があるだけあって、安定感のある演技を披露していた。ラスト、「今度こそは!」と、電車内で赤ん坊と母親を助ける決意をする瞬間の無言の表情が素晴らしかった。
しかし、間違いなく本作最大の演技派役者は、その動きの正確さから海外で「AIなのでは?」と疑われたという河内大和だろう。本当にゲームのCPUのような正確な歩行スピード、感情のない不気味な満面の笑みといった演技が素晴らしい。そして、まさかまさかの彼視点のストーリーである。彼に物語がバトンタッチされてからの、一気に人間味溢れるキャラクターに変貌する様子も見事。
拘り抜かれた「8番出口」構内のセットは抜群の完成度。本当にゲーム世界に迷い込んだかのような、また自分でゲームをプレイしているかのような感覚を覚えさせる。ゲームにあるような、「8」の数字が逆さまになっているという細かな異変の再現も良い。
しかし、そうした役者陣の好演やセットの素晴らしさを、安易なジャンプスケア演出の多用で削いでしまっていたのは残念だった。“「何もない」からこその恐怖”という演出について、もう少し煮詰め、工夫してほしかった。ただし、恐らく本作のメインターゲットは、普段映画を観ないライト層だと思われるので、そうした層に向けた“分かりやすい”、言い換えれば“観客の知能の低さを想定した”演出だと思うので、こうした演出に不快感を示す人々に向けたものではないのではないかと思われる。
また、キャラクターの動向や明かされていく真実含め、こちらの予想の範囲を終始出る事のなかった脚本についても、もう少し捻りの効いたものを(無理だろうとは分かっていつつも)期待していたので、全て予定調和な印象は拭えなかった。
【『8番出口』という世界に重ねられた、人生の岐路】
物語として描かれている事は非常にシンプルで、あの「8番出口」とはつまり“人生の岐路"であり、自らの人生に悩みを抱えている人々が迷い込む空間という事なのだろう。
だからこそ、二宮和也演じる「迷う男」をはじめ、まさかの主観視点が用意されていた河内大和演じるおじさんこと「歩く男」、歩く男が出会う異変である花瀬琴音演じる「女子高生」らは皆自らの人生に疑問を抱いていたのだと思う。「迷う男」は、恋人とヨリを戻して子供を出産すべきかについて、「歩く男」と「女子高生」は、繰り返される変化の乏しい日常を生きていく事について、それぞれが悩んでいたのではないかと思う。また、深くは語られなかったが「歩く男」は「女子高生」の指摘によると、何かしらの現実世界でやましい事を抱えていた可能性もある。
キーとなるのが、「少年」だ。後に男と恋人の間に未来で生まれてくる息子だと判明する彼は、迷い込んだ人々を正しい道へと誘う、所謂“お助けキャラ”であると同時に、男に「目的を持って未来を生きる」事を選択させるメンターでもある。また、好意的に捉えるならば、あの少年は自らを産むか迷っている男と恋人へ「2人の間に生まれてきたいよ」とメッセージを伝える存在なのだろう。
彼だけが、あの異質な空間にて時間という概念を超越していたのも、そうした未来という「確定していない現実」の存在であるからなのだと解釈すると、ストーリー的な辻褄は合うように思う。
とはいえ、シチュエーション・スリラーの金字塔である『CUBE』(1997)に代表されるように、こうした作品は「理不尽で理解不能な舞台」を楽しむ事こそが最大の魅力であるので、細かな部分について辻褄合わせや答えを見出す行為は、言ってしまえば時間の無駄とも言えてしまうので、本作も細かい部分は「何となく」で受け流してしまっても良いかもしれない。あの空間自体、男の夢や妄想とも受け取れるし、あくまで本作は原作ゲームの世界観を基に再構築されたものであり、原作の答え合わせをする作品でもないので。
ラスト、冒頭で男が見捨ててしまった地下鉄での母子と乗客のトラブルが再び再現され、父親になる決意を固めた男は、仲裁に入る為動き出す。スマホや時計の表示がされないので想像するしかないが、地下鉄の状況が「8番出口」に迷い込む直前と全く一緒である事から、もしかすると男は物語開始より「少し前」に戻ったのかもしれない。
【総評】
インディーズゲーム原作、豪華キャスト、ワンシチュエーション・スリラーという話題性十分な要素をふんだんに含んだ、ロケットスタートも納得の一作であり、監督である川村元気のプロデューサーとしての慧眼ぶりが改めて伺える作品であった。
ところで、平日のレイトショーにも拘らず客入りは上々で、その多くがカップルであり、1人で映画を楽しみ、作品について考察しながら楽しんだ私は多分に惨めな思いをした。
私の人生の「8番出口」は何処だろう?0番出口(人生0)から、やり直しです。
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