劇場公開日 2025年5月23日

「忘れても失ってはいない大切な思い」父と僕の終わらない歌 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5忘れても失ってはいない大切な思い

2025年5月25日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

幸せ

癒される

予告から感動のヒューマンドラマを期待して、公開2日目に朝イチで鑑賞してきました。中高年中心ではありましたが、かなりの客入りにびっくり!みなさん、ご自身のこの先を心配して興味をもたれたのでしょうか。

ストーリーは、若い頃にレコードデビューを目指しながらも息子・雄太のために夢を諦め、今は楽器店を営みながら地元の小さなステージで歌い続けている間宮哲太が、ある日アルツハイマー型認知症と診断され、時折息子の名前さえ思い出せなかったり急に怒り出したりするものの、雄太や妻・律子の献身や商店街の仲間の優しさに支えられ、その歌声が多くの人に広がっていくというもの。

冒頭で見せる哲太と雄太のやり取りに、観ているこちらが小っ恥ずかしい思いをして、なんだか不安な立ち上がりです。でも、話が進むにつれその違和感もしだいになくなり、作品世界に浸ることができます。あとで思えば、冒頭の茶番は、久しぶりに再会した親子のぎこちなさを演出していたのかもしれません。

雄太が動画を撮って知人に送るあたりから場も温まり、それがSNSでバズるあたりからだんだん引き込まれていきます。展開に合わせて少しずつわかってくるのですが、雄太は父に対して負い目を感じるものを抱えており、哲太もそれを腹の底では受け止めきれずにいるようで、微妙な親子の関係性も物語のよいアクセントになっています。

また、商店街の顔馴染みの人たちからは、人情味あふれる温かさを感じ、これまで間宮夫妻が周囲とどう付き合ってきたかが窺えます。その一方で、ネット民の誹謗中傷や間宮家への悪質なビラ貼りなど、心ない行為に悲しくなります。素性を隠して安全な場所から他人を傷つける人間性のなさに憤りを覚えるとともに、心の貧しさを憐れに思います。

そんな顔の見えない人から向けられる悪意に屈することなく、哲太を支え続ける雄太と律子の姿が熱いです。症状が悪化し、どんどん記憶を失いつつある哲太ですが、その心の中には決して失われることのない、二人に対するあふれんばかりの愛情があったことでしょう。

そしてもう一つ。若き日に果たせなかったレコードデビューの夢も、哲太の心にずっと燻り続けていたのでしょう。デビューの可能性を聞いて大はしゃぎし、古いカセットテープを探して荒れる姿に、夢を諦めきれない哲太の強い思いを感じます。時には手をつけられないほどの状態の哲太ですが、その思いを受け止めてくれる家族や仲間がいることは本当に幸せです。

認知症を患う家族との暮らしは、実際にはもっと凄絶な面もあるかもしれません。場合によっては、かつての姿と比較して、悲しくなったり怒れたりすることもあるでしょう。それでも、思い出を忘れても、心の中の大切な思いまでは失っていないのだと感じさせてくれ、認知症の家族との向き合い方のヒントを与えてくれているような気がします。

ただ、ちょっと物足りない思いもあります。できれば、雄太に対する哲太の思いをもう少し踏み込んで描いたり、CDデビューするところまでを描いたりしてほしかったです。とはいえ、鑑賞後の後味は悪くなかったです。

主演は寺尾聰さんで、老いてなお魅力的な歌声が素敵です。脇を固めるのは、松坂桃李さん、佐藤栞里さん、三宅裕司さん、石倉三郎さん、松坂慶子さんら。

おじゃる
PR U-NEXTなら
映画チケットがいつでも1,500円!

詳細は遷移先をご確認ください。