「忘れたくない輝き」父と僕の終わらない歌 うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)
忘れたくない輝き
アルツハイマーと診断された父の生活と家業をサポートするため横須賀の実家に戻った息子が、久々の父との密な時間と父の記憶の交錯をきっかけに、父との新たな歩みを始める物語。
父・哲太の軽妙な人柄と熟練の歌声を、寺尾聰氏が好演している。シリアスな役柄が多いイメージなので、哲太の明るすぎるくらいのキャラクターには少々戸惑った(笑)。歌唱シーンは圧巻で、デビューは叶わずも人前で歌い続けてきた哲太の年輪がうかがえた。青春映画をよく撮ってきた監督だからか、横須賀という土地のイメージなのか、ハレーション気味の明るい画面とポップなアレンジのナンバーがマッチしていた。
原案はイギリスの実話だそうで、明るいエピソードだけを抽出して話を作ることもできたのだろうが、アルツハイマーという改善することも進行が止まることもない病の悲哀もきっちりストーリーに織り込まれていた。父・哲太を通して患者の不安、母・律子や雄太を通じて患者の身近な人の苦悩が描かれており、普段の間宮家の明るさがあるからこその痛みがあった。
雄太が父の歌を記録し夢を実現させようとする行動は、父のためであると同時に、自分の中の父の姿が病を得てからの姿に上書きされてしまうのを食い止めたかったのではないだろうか。
彼らが病苦に閉じこもらず、それまでの地元の人々との縁を途切れさせないところも良かった。
一人の人物の過去の姿や出来事・想いは、ともすると容易に時の流れにさらわれ失われてしまう。それを縁ある人々が有形無形の方法で留めてくれる、その温かさや頼もしさを感じる物語だった。
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