「果てしなきエゴ(自己満足、思想、哲学)を観せられた印象」果てしなきスカーレット 映画好きの狢さんの映画レビュー(感想・評価)
果てしなきエゴ(自己満足、思想、哲学)を観せられた印象
採点内訳
総評:☆1
映像美 :☆5
物語 :☆1
キャラ性:☆0.5
世界観 :☆1
現在のアニメで表現可能な実写的映像美を可能な限り追い求めたような映像であり、背景や水の表現を初めとするCG技術は実写と見紛うばかりの部分もある。鬼滅、レゼ、ズートピア2のような映画と見比べても『実写的アニメ映像』という括りで観れば、おそらく勝っているような印象を受けましたが……逆に言えばそれだけしか評価ができない、というのが個人的な意見です。
鬼滅、レゼ、ズートピア2は観客を楽しませる大衆映画でエンターテインメントに徹していますが、本作こと『果てしなきスカーレット』は全く違います。
細田守監督の考える『人とは、人生とは、争いとは、生きるとは、死とは何なのか』という哲学と思想がキャラクター達を演じる声優達の声で語られる……謂わば『哲学映画』に分類されるべき作品です。
人は誰しも『自分の考えを語る、説明する』ことが大好きです。脚本を書いている時の監督はそれはもう気持ちが良くて、さぞ楽しかったことでしょう。しかし、結果としてエンターテインメント性が著しく低い。
もちろん、世の中には『面白い哲学的な映画』というのは存在しますが、それは哲学とエンターテインメントのバランスが取れているからです。
その点『果てしなきスカーレット』は、監督の哲学と思想が終始全面で自己満足的に押し出され、かつエンターテインメント性が低いため、表題の『果てしなきエゴ』に繋がっています。
本作を観たあと、果てしなきスカーレットの予告編を見直すと『一番わくわくできる部分』
が全て集約されていることに気付かされ『予告映像が一番面白い』と感じられるほどです。
いっそ予告で映画の暗い場面ばかりを抜粋し、『この映画は細田守監督の哲学を集約した復讐劇』としてくれれば、まだ良かったかもしれません。内容が駄目なことにはかわりませんが、少なからず大衆映画を期待した観客をがっかりさせることは多少なりとも防げたはずです。
物語はハムレットという古典の復讐劇を元にしているそうで、クーデターで王を殺害して圧政を敷く伯父クローディアスに、王の娘である主人公スカーレットが復讐を果たす……という物語の『軸』はそこまで難しいものでありません。問題なのは世界観と登場人物です。
主人公をはじめとする登場人物が揃いも揃って感情移入して応援できるようなキャラではなく、観客は「うーん、そうかなぁ。それって、どうなの?」と首を傾げて唸ることになるでしょう。そこに拍車を掛けるのが『よくわからない世界観』です。
映画の冒頭、主人公のスカーレットは伯父クローディアスの暗殺に失敗。返り討ちにあって死んでしまいます。
死後の世界に行き着いたスカーレットでしたが、クローディアスも死後の世界にいて、かつ巨大な権力を保持しているということを『謎の老婆』に教えられ、再び復讐を果たすべく死後の世界を旅することになります。
この際、謎の老婆に『ここは現在、未来、過去、生と死が混ざり合って溶け合った世界だ』と教えられます。しかし、死後の世界でスカーレットが合う登場人物はモブを含め『スカーレットが生きた時代と同じ人ばかり』なのです。ちなみに、主人公のスカーレットはクローディアスに復讐することだけを考え、何故彼が同じ死後の世界にいる理由をほとんど考えようとはしません。考えさせるのが面倒臭かったのかな?
物語の途中で『聖』という日本で救急看護士を勤めていた青年と出会い、旅を一緒にすることになるのですが、観客の考える『現代人』は彼しかでてきません。海外の現代人は一人も出てこないのです。映像の中で日本の甲冑や武具が映り込む映像はありますが、それだけです。『謎の老婆』は言いたかっただけなのか?
また、聖という登場人物も剣を持って殺しにきた盗賊をスカーレットを返り討ちにして殺害することをよしとせず『殺すな』とか『治療できずにすいません』など呟き、いかにも『戦争の現実を知らないステレオタイプの日本人』であり、とても応援できませんし、感情移入できません。おまけに物語後半で、彼は弓矢で敵を葬ります。『殺すな』はどうなったのか?
なお、死後の世界とか言いつつも、登場人物達は致命傷を負うと体が砂のようになって完全に死んでしまいます。これを『虚無』というらしいですが、個人的にゲームのDARK SOULSに存在する『亡者』から着想を得たのかな? という印象を受けました。というか、全体的に世界観がDARK SOULSシリーズに近い気が……。
いくらファンタジーと言っても、物語と世界観の整合性がつかない展開をされると白けてしまいます。挙げ句、ずっと細田守監督の哲学、思想を語られるので上映時間が果てしなく感じてしまうのでしょう。
つまらないことを前提で観に行くならお勧めできますが、大衆映画として観に行くのはお勧めしません。
まだまだ書き足りない気もしますが、これぐらいにしておきます。
ご覧頂きありがとうございました。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。

