その花は夜に咲くのレビュー・感想・評価
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沈まぬ花は、やがて清流とともに大海へと流れ着く
2025.3.25 字幕 アップリンク京都
2025年のベトナム&シンガポール&日本合作映画(121分、R15+)
望まぬ性で生まれた女性とその恋人を描いた恋愛&ヒューマンドラマ
監督&脚本はアッシュ・メイフェア
英題は『Skin of Youth』で「若い肌」という意味
物語の舞台は、1998年のベトナム・サイゴン
恋人サン(チャン・クァン)の性転換手術の費用を稼いでいるボクサーのナム(ボー・ディエン・ザー・フイ)は、少ないファイトマネーを積み重ねていた
サンはナイトクラブのシンガーとして働いていて、彼女はパトロンを見つけてでも、早く手術をしたいと考えていた
ナムには祖母(フィ・ディウ)がいて、彼女の営む露天を手伝いながら、仲睦まじく暮らしていた
だが、祖母はサンの性別を知りながらも、「孫の顔が早く見たい」と呟いていた
ある日のこと、ナイトクラブにて、街のフィクサーとして知られるミスター・ヴーン(井上肇)を見かけたサンは、自分のパトロンになって欲しいと訴える
その想いは実り、手術代を超える額を手に入れることができた
だが、その見返りとして、ヴーンの愛人となる約束になっていて、サンはナムよりも彼と過ごす夜が増えていってしまった
物語は、距離が空いてしまった二人の間に、売春婦のミミ(ファン・ティ・キム・ガン)が入ってくるところから動き出す
寂しさのあまりに女を買うことになったナムは、そこで出会ったミミとの関係を続けてしまう
また、サンはヴーンと関わるようになってからドラッグに手を染めるようになり、自傷行為などもエスカレートしてしまう
そして、ようやくお金が貯まり、タイに行くものの、「自傷行為のある患者はリスクが高くて手術できない」と言われてしまうのである
映画は、ナムと関係を持ったミンが妊娠し、それによってサンとの仲に転換期が生まれる様子を描いていく
サンはナムの子どもだからとミミをケアする立場になり、ナムは生活費のことを考えて、地下格闘技の世界へと足を踏み入れていく
そして、ヴーンに打診し、どこにでも行って戦うから、勝てばギャラを弾んでくれ、と取引を持ちかけるのである
ベトナムとシンガポール、日本の合作ということで、日本からも何人かの俳優さんが出演し、エンドロールでは色んなところに日本人の名前が散見された
情報がほとんどなく、ベトナム語でググってもなかなか辿りつかないのだが、インスタなどを追っていくと色んなものが見えてくる
パンフレットにはあらすじが全て書かれているので、読み返すだけで映画を思い出せるのは良いと思う
ラストシーンは解釈が分かれると思うが、ナムとの世界を切り捨てたと考えれば新天地(ヴーンの世界)に溶け込んだとも思えるし、どちらの世界も拒んだという見方もできなくはない
個人的には溶け込む覚悟ができた派だが、それは女性になりたいと想う気持ちの方が、ナムを愛しているという気持ちよりも強いと思うからである
水面に浮いた花が散ることもなく、沈むこともなく融和していく様子を考えれば、より大きな世界(海)へと向かうメコン川の流れに身を委ねたのではないかと感じた
いずれにせよ、なかなか稀有なベトナム映画ということで興味を持って鑑賞したが、さすがに前半の展開は緩くて眠気との戦いになった
本懐は、事件後の裁判シーンなのだが、そこで挿入されるサンの決断とその歌はとても素晴らしい
また、サンの決断を知るナムのなんとも言えない表情も良くて、ここまで完走できた人へのご褒美のように思える
ベトナムの情勢に詳しくなくてもOKの作品なので、あまり構えずに鑑賞しても良いのではないだろうか
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