「この題材をエンターテイメントとしても成功させたのはスゴい」フロントライン kayaさんの映画レビュー(感想・評価)
この題材をエンターテイメントとしても成功させたのはスゴい
ダイヤモンドプリンセスが横浜に停められていた時、ちょうど船で横を通りがかった。これが、例の、ダイヤモンドプリンセスかぁ、と野次馬根性で眺めた。
その後、様々な困難や悲劇を報道やSNSを通して知ったが(クルーのご家族のツイッターが印象に残っている)、今回の映画もまずは、あの私が横を通っていたあの時、中では何が起こっていたのかな、という興味本位で見に行った。
たった5年前に実際にあった出来事を題材にしているので迂闊なコメントをすると不謹慎になりかねなくて言葉選びが難しいが、シリアスな内容でありつつエンターテイメントとしても良く出来た映画だったと思う。
前半はパニック映画やサスペンスが好きな私も満足のドキドキハラハラの緊迫感があり、中盤以降は、拡大防止か命かの問題、医療従事者の献身に対して返ってくる差別、大衆受けするネタに食い付き、切り取り、偏向報道するマスコミなど、胸が潰れる思いで見た。自分も大衆の1人として、ネタとして消費していた自覚をさせられたから。
物語中の藤田医大の医師が受け入れた乗客の対応に一通り当たった後、乗客に同行してきたDMATの医師に怒りをぶつけるシーンがある。
あれは厚労省やDMATへの怒りではなく、自分自身への怒りだろう。
理解して、受け入れまで決めた自分が、実はまだまだ全然理解できていなかったことを自覚して、痛感させられての、自分への怒り。
観客もまた、同じような心の動きを体験するだろう。
ネタとして消費する側から、当事者になる不安と、ネタにしていたことを恥じ入る気持ち。自分が未熟で卑しいのを自覚させられるのは辛い。
とはいえ、物語は、家族を思いやる心、乗組員や医療従事者や役人の仕事への使命感など、全編を通して根底にポジティブな精神があるので、後味は良い。
端的に言うと、感動しました。
見て良かった。
(この話の中で、元気な乗客が一番始末悪い的なことを船内で対応に当たっている医師が言ってましたが(確かに私も当時SNSとかで色々始末悪いところは見た)、始末悪かった元気な乗客はこの映画を見てどう思うのだろうか…ちょっと気の毒ではあります。その人だって船内に隔離されていたら状況を俯瞰的に把握するなんてできなかっただろうし、そうしたら不安になって自分の苦難を外部に訴えたくもなりますよね…)