「描け」かくかくしかじか SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
描け
主演女優のスキャンダルとかいろいろあって残念だったが、原作はまぎれもない名作で大好きなので、もう気にしないことにして映画館に足を運んだ。
原作はエッセイ漫画的なリアリティがあって、だからこその感動があったのだが、映画はリアリティは失われているものの、これはこれで別物と割り切れば面白い。
原作を知らないで映画観た方が面白いと感じると思う。
時代による漫画の描き方の変化も分かって面白い。スクリーントーンをカッターで切ってた時代から、今は完全デジタル…。
大泉洋の演技がすごい。モデルになった先生(日岡兼三)の写真を調べたら、見た目もそっくり。
あれだけお世話になってた先生なのに、ガンで余命が無いと分かってからも一度しか会いに行けず、死に目にも会えなかった、というのがリアル。人って死ぬ時は本当にあっさり死んでしまう。
先生の生き様に感動した。大好きな絵だけのことを考え、絵を描くことだけのために生きた。自分も、だらだらと生きるのではなく、本当に価値があることのためだけに生きなければ、という気にさせられた。
「描け」という言葉は、自分にとって一番大事で、一番難しいことから逃げずに向き合って行動しろ、という意味だと思う。
先生の指導法には考えさせられるものがある。とにかく「描け」「よく観て描け」それだけ。
先生が、描く方法を教えることに一所懸命になってしまうと、生徒は方法を与えられることに慣れてしまい、自分で方法を考えることを学ぶことができない。
目標だけを与え、方法は教えない。そして安易にみせかけの応用は教えず、徹底して基礎だけを身体にしみこむまで叩き込む。
昔ながらの職人の世界の教え方なので、現代でこれをやるのはいろいろな意味で難しいかも知れないが、結局こういう方法でしか本当の力は身につかないと思う。
この映画で一点だけ不満だと思うのは、先生のモデルになった日岡兼三氏について何も言及がないこと。
原作者の自伝的作品とはいえ、いろいろ現実とは違う点があるし、先生の名前も変えているので、「この作品は事実を元にしているけど、あくまでフィクションです」というスタンスだということは理解できる。
でも、エンドロールの最後くらいに一言くらい触れるべきだろう、と思う。
日岡氏は実際すごい画家だし、作品もすごいのに、氏の画家としての業績に全く触れないのは、敬意に欠けているというのは言い過ぎだろうか?