「対象物に自分が見えるまで、物事は続けた方が良い」かくかくしかじか Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
対象物に自分が見えるまで、物事は続けた方が良い
2025.5.16 イオンシネマ京都桂川
2025年の日本映画(126分、 G)
原作は東村アキコの同名漫画
売れっ子漫画家の絵画の師匠の絆を描いた伝記映画
監督は関和亮
脚本は東村アキコ&伊達さん
物語の舞台は、2015年の東京某所
漫画賞の授賞式に招かれた東村アキコ(永野芽郁)は、授賞式のスピーチで受賞作品について話すことになった
その後、職場に戻ったアキコは、自分が漫画を描き始めたきっかけを思い出すことになった
宮崎に住む明子(照井野々花)は、小学校高学年になったとき、道端に捨ててあった少女漫画の雑誌に目を留め、その内容に惚れ込んでいた
漫画家になる夢を持ち、絵を描き始めた明子を、父・健一(大森南朋)、母・伸子(MEGUMI)は暖かく見守り、高校では美術部に所属するようになった
部活でも顧問の中田先生(有田哲平)にベタ褒めされていたが、友人の北見(見上愛)からは、現実はそんなに甘くないと諭されてしまう
北見はとある絵画教室に通っていて、そこは著名な画家が個人で行なっている教室で、月謝はたったの5千円だった
明子は両親を説得して、そこに通うことに決めたが、その教室の日高先生(大泉洋)は、とてつもなくパワバラがすぎる先生だったのである
物語は、絵画教室での先生との出会いからその生活を描き、そこから美大進学への過程を紐解いていく
美大卒業という肩書きのために進学した明子だったが、生ぬるい学生生活を送り、絵も漫画も描かなくなってしまう
そして、何も成さぬままに卒業し、先生からの勧めで地元に戻り、絵画教室を手伝うことになった
だが、両親は無職状態を許さず、父の勤め先のコールセンターに無理矢理入社させてられてしまうのである
映画は、赤裸々に過去を綴りつつ、様々なキャラクターが先生と関わりを持つ様子を描いていく
印象的なキャラもたくさんあり、生徒との関わりの中で明子のポジショニングが見えてくるようにも思える
ひたすら冷静な北見と、情熱で突き進む後輩・今ちゃん(鈴木仁)との成長の差を考えると、いかに先生の指導に盲目的だったかが画家としての成功度合いに直結していた
明子は漫画家になりたいことを隠し続けていたが、先生は本気で画家になれると思ったのだと思う
漫画家を目指すことよりも、その踏み台として時間を浪費したことのほうが問題なのだろう
先生は何も言わないけれど、彼が人生を賭けて描いていたものの否定にも繋がっているし、彼の時間を奪ってきたことにもなるので、その辺りも含めて「最低だったんだなあ」と思った
映画では、「描け」としか言わない先生だが、それは描き続けることで邪念が消えるという瞬間があり、目の前にある対象物と本当の意味での向き合いができるからだと思う
自分を紙に落とし込める人は凄いという言葉があったが、その手段が絵画か漫画かの違いがあっても、そこに明子自身が生きているのなら、先生は満足したのではないだろうか
いずれにせよ、例の騒動が理由で回避するのは勿体無い作品で、自分自身が何者かわからずに悩んでいる人に見てほしい映画だと思った
絵であれ、漫画であれ、それ以外の何かであれ、自分自身を落とし込めるものを探している人にとっては参考になると思う
それは、まずは好きなことをやり続けて、そこに自分自身がいるかを確認する所から始まる
先生はスランプに悩んでいた時に自画像を描かせたのだが、これは自分を客観視させるという意味合いがある
3つのキャンバスに描かれた自分は紛れもなく全部自分であり、多面性があっても然るべき存在である
それが評価されるということは、そこに自分が描けていた証拠でもあるので、それが彼女の作風に繋がっていくのだろう
目の前にあるものが無機物であったとしても、それをどのように見ているかはその人だけのものであり、それを表現できる人こそが画家になれるのかな、と思った
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