劇場公開日 2025年4月11日

「「劇中劇」を超え、「劇中劇中劇」という新しいジャンルを確立した作品」シンシン SING SING えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5「劇中劇」を超え、「劇中劇中劇」という新しいジャンルを確立した作品

2025年4月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

幸せ

癒される

NY、<シンシン刑務所>。無実の罪で収監された男ディヴァインGは、刑務所内の収監者更生プログラムである<舞台演劇>グループに所属し、仲間たちと日々演劇に取り組むことで僅かながらに生きる希望を見出していた。そんなある日、刑務所いちの悪党として恐れられている男クラレンス・マクリン、通称“ディヴァイン・アイ“が演劇グループに参加することになる。そして次に控える新たな演目に向けての準備が始まるが――(公式サイトより)。

演劇グループに所属する一義的な意味は、自由が制限され、娯楽が少ない刑務所の中で自由に楽しめるから。しかし本質は二義的な、「何者かを演じることで、自分に返ってくるから」であろう。掛け声にもなっている「RTA」とはRehabilitation Through the Artsの略称。これはどこまでに行っても更生プログラムである。

一方で、過去の罪を、自らではどうしようもなかった出自を、そこから連綿と続く現在の自分を乗り越えるのはなかなか難しい。娑婆に居るわたしたちにだって難しいのに、まわりが自分と似た犯罪者だらけの刑務所であれば、どこか赦される感覚を覚えることや却って居心地が良くなることもあるだろう。全体の出演者の85%が元収監者という本作は、いわばそういう虚無的な堕落を乗り越えた人たちによる、自分次第で何者にでもなれるのだという、静かな賛歌である。

その意味でこの映画は、いわゆる「劇中劇」を超え、「劇中劇中劇」というか、「ハーフドキュメンタリー」というか、何かしら新しいジャンルを確立したと言える。さらに、アカデミー賞にまでノミネートされたことで、「何者にでもなれる」がより強化された。さぞかし本人たちも驚いたであろう。

デジタル撮影が主流の現代において、16ミリフィルムで撮影した意図は、合間に挿入される刑務所での本当の記録映像との地続きを表現するためだろうか、デジタルに比べピクセルがでかい分、色が濃く、鮮やかに映える。

えすけん
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