「後は頼んだぞというバトンタッチ」雪風 YUKIKAZE alfredさんの映画レビュー(感想・評価)
後は頼んだぞというバトンタッチ
第一次世界大戦勃発から次の第二次大戦勃発まで約25年の月日がある。人が生まれて、多くの場合は最愛の人と出逢い自分の子供が出来る期間だろう。辞書的には四半世紀と言われる長さになる。
本作では、終戦後25年の大阪万博(70年)が対比として登場する。戦後の高度成長と平和の象徴としてだ。
駆逐艦「雪風」は、戦中を生きのびた数少ない船だという(たった一隻のみだったという記述もある)。運もあったのかもしれないが、冷静かつ適切な判断と行動が出来た艦長と乗務員の功績だろう。雪風は戦後は引揚船として機能し(劇中描写あり)、最後は中国側に戦争賠償として引き渡され、71年(大阪万博の翌年)に解体されたという。
そういう意味では、雪風は戦争を生き延びて天寿を全うしたといえよう。
サミュエル・フラーの「最前線物語」(80年)で、2つの大戦を生き延びてきたベテラン軍曹が若き兵士に向かって「戦場で1番大事なこと、それは生き延びる事だ」と言う場面がある。
「スターウォーズ」でスカイウォーカーを演じスターとなったばかりのマーク・ハミルが、ゴダール作品への出演もある鬼才サミュエル・フラー作品に出ることで、公開当時話題になった作品だ。
本作に登場する軍人らは、誰も明確に口にはしないが、アメリカとの戦争が無謀であり勝ち目が無いと思っている。しかし、暴走列車に乗っている自分らは、列車を停めて降りることは誰も出来ないとも感じている。
船が呉港に戻った時、船員らは楽しみにしていた映画が上映されていなかったことを悔やむ。中には敵国のジョン・フォードの「駅馬車」の名を口にし観たかったといい、さらに「あんな映画を作る国と戦うのか」と嘆息をつく。
さらに、艦内の上下関係の緩い和気あいあいとした雰囲気など、「貴様はそれでも大日本帝国の軍人かっ‼」と上官からの鉄拳制裁が乱れとぶ戦争映画を見慣れた者としては違和感アリアリなのだが、これらは敢えての演出なのだろう。
艦長はかつて日米開戦に反対した人物として描かれるなど、精神論で圧倒的な物量の差を埋めようとしたことへの皮肉ともとれる。
最後に船員らが甲板から手を振りながら「日本を頼むぞ」と呼びかける場面がある。多くの人は余計だとか否定的のようだが、あの戦争を生き延びることの出来なかった者たちの遺言だと私は受け取った。
特攻の説明や戦線の動きを図示する点などは若い世代への配慮なのだろう。戦後80年という長さは人の健忘には最適な期間かもしれない。
「負けて良かったじゃないか。」
まだ戦争の記憶が人々に鮮明に残っていた時期に、小津安二郎は映画「秋刀魚の味」(小津の遺作)の登場人物にそう言わせている(この点については内田樹さんが書籍やネットで言及されているのでぜひ一読を)。
呉を舞台としたアニメ「この世界の片隅に」で敗戦を知った主人公のすずさんは思わず「ふざけるな‼」と叫ぶ。艱難辛苦を国民に強いておきながら、「負けました」では納得がいくわけもない。
私も負けて良かったと思う。頭の悪い軍人が威張り散らかすような時代など御免被る。しかし、それには膨大な死者と損害が必要だったというのが口惜しいばかりだ。
いま生きている我々の多くは、あの戦争を生き延びた者たちの子供や孫たちだ。
命はつながるものであり、いまを生きる者は次の世代にバトンタッチしていく。その時、「後は頼んだぞ」と次世代に言葉をかけていくのだと思う。
