「戦争だけはしてはいけないという決意を感じました」雪風 YUKIKAZE greensさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争だけはしてはいけないという決意を感じました
※ 昨日(8月28日)、運良く大ヒット御礼舞台挨拶に参加できたので、末尾にコメントを追加しました。
終戦記念日にあたる8月15日の公開初日に地元の映画館で鑑賞しました(観てからその感想をきちんと言葉で表現できるようになるまで結構時間がかかるタイプなのでして、、、サッと分かりやすい言葉で感想を書ける、頭の回転が速い人は私の永遠の憧れです笑)
館内では男性のお客さん、ご夫婦が多かったですが、若い方が多かったのが印象的でした。
この映画ですごくリアルだと思ったのは、製作者の皆さんで行かれたのでしょうか、撮影前に江田島や横須賀を訪れた時に主演の竹野内豊さんが感じたという、意外にも淡々とした海軍の日常の様子を映画の中でも感じたことでした。
もちろん、激戦のさなかにいる雪風と戦時でない海軍の様子とでは前提が異なりますが、映画では激しい戦いのシーンだけでなく、船員達が朝起きてから夜寝るまでの間の「戦争をするという日常」も描かれていて、「当時はこんな毎日だったのだろうな」と感じられて、すごくリアルでした。
機械を整備したり、敵軍の動向を探りながら味方と自分達の作戦内容や航路を確認したり、その中で食事をしたり、時に仲間と笑いながら楽しく語り合ったり、、、朝が来て、そしてまた夜を迎える。その日常の中に味方の戦艦が沈み、仲間達が亡くなってゆく悲劇や悲しみがあるのですが、戦況が更に悪くなると明るさは消えて、焦燥感と悲惨さと絶望感が重くのしかかる日常に変わってゆきます(と言いつつ、戦争というものの本質を見るなら、戦況が悪くなるから暗い、というだけのものではないんですよね。味方が優勢で明るく笑っている時、敵側は血を流して泣いている、というのが戦争なので、勝っていようが負けていようが戦争そのものが暗いものなんですよね、、、)。
そのような中、絶望感に打ちのめされかけても 駆逐艦「雪風」に乗る一人一人は、目の前にいる仲間の救助を全力で行い、一日、また一日と日々が過ぎて行きます。
「こんな日常が一体いつまで続くのだろう」、実際の雪風の船員の方々がそんな気持ちに襲われたこともあったかもしれません。でもその気持ちを振り払って自分を奮い立たせ、絶望的な戦況の中でも仲間たちのためにただ必死に自分の任務を果たそうとする雪風の船員たちの姿には心を打たれました(自分が同じ立場にいたら、どこかで心が挫けてしまいそうなくらい壮絶な救出です)。そしてその純粋さや情熱が戦争に関わることに注がれていることが本当に悲しかったです。
特に、奥平大兼さんが演じた井上水雷員をはじめとする若い船員達の姿はまぶしく、たくさんの可能性を秘めた若者たちが、戦争に時間やエネルギーを一心に注いでいるのだと思うと、「平和な時代に、もっと他のことに情熱を注ぐことが出来たなら、、、」と、本当にやるせない気持ちになりました。パンフレットにもある井上水雷員の語り「家族に、仲間や恋人のために、自らの未来を閉ざした無数の若者がいた」には胸が詰まります。
戦争の悲惨さはどの戦争映画にも共通するところですが、パンフレットで触れられた雪風の歴代の艦長さんの座談会によれば、雪風には艦長以下、船員の間で形作られた人間味溢れる温かい艦風(艦の風土)があったそうです。その風土があったから艦員が心を一つにして人命を救う行動につながったのでは、と感じました。もしかしたら艦というのは艦に命を預け、狭い船室に別れて暮らす運命共同体のようなものなので、艦ごとの風土が作られやすいのかもしれません。この雪風の風土は、艦長役の竹野内豊さんをはじめ、砲術長、水雷長など各部門の長、玉木宏さん演じる先任伍長、井上船員(奥平さん)や仲間の船員たちの関係性にとてもよく感じ取ることができました。
特に艦長と先任伍長の関係性については、立場の違いから来るすれ違いはありながらも、艦員や戦友たち、その家族や国にいる人たちのことを思い、求められるところに駆けつけて人命救助に全力を尽くす、、、2人がその強い信念で繋がっていることがよく表現されていて、それは竹野内豊さんと玉木宏さんの組み合わせだからこそという感じがしました。
映画の中で艦長や艦員たちが甲板で手を振るシーンについては賛否両論のようですが、私は勢揃いした艦員(役者さんたち)の顔をみながら、「そういえばこの役者さんたちの親族(お祖父様•お祖母様以上の代でしょうか)で、あの戦争に関わらなかったという方は、1人もいないんだなあ、、、」と当たり前のことながら感じました。役者さん、制作スタッフさんが100人いたらその背後には、あの戦争をくぐり抜けた体験が100あるのですよね。1人でも欠けたら、その後は生まれて来ない訳ですから、、。「過去に戦争の時代を生きた人たちの土台の上に今がある」、、、そう感じることはありましたが、それって、今生きている自分達の背後にいる、本当に「全ての人たち」なんだなあ、、と感じました。
あの時代雪風に携わった方々は「命を守ろう」という思いで繋がっていて、全力で人命を救う使命に立ち向かった。そしてこの雪風という映画の制作に携わった方々は「絶対に戦争だけはしてはならない」という、先人から引き継いだ決意で繋がっている。それでこの映画が出来た、、そんな風に感じられて、甲板のシーンは個人的には大変感慨深かったです。
なお戦争映画には、人間が極限を越えてしまった悲惨な情景を強めに描く(と言っても、筆舌に尽くし難い体験をされた方の実体験にはかなわないと思いますが)映画もあれば、この映画のようにそういった目を覆いたくなるような情景は控えめに描くものもあり、どちらも戦争について考えさせてくれる大切な作品だと感じました。戦争に向き合うのはつらいことですが、ウクライナやガザ地区で戦闘が続く今、この作品を観て月並みながら「普通の日々というのは、当たり前ではないんだな」と感じました。観に行って良かったです!10代、20代の若い方たちにも是非この「雪風」を観て、「戦争をする日常」の無益さや悲しさ、人命こそが大切だということを感じてもらえるといいな、と思います。
※ 追加コメント: 「大ヒット御礼舞台挨拶付き上映会」で2度目の鑑賞をして
舞台挨拶冒頭に、10代で実際に駆逐艦「初霜」に乗っていた今井さんという方の、映画「雪風」鑑賞後のコメント映像を流して下さいました。今井さんは一生を通してご自身の駆逐艦での経験を語り続けて来られ、この作品の制作にも大変ご協力下さったそうです。当時戦場で実際に見た情景と映画との違いや、思い出したくない記憶などがお心をよぎるのかな、、とドキドキしながら見ていましたが、今井さんはしばらく涙をされた後、作品の完成を喜ばれ、制作してくれてありがとうとおっしゃっていました。私たち観客にもこの今井さんの映像を共有して頂けて、上映会に参加して本当に良かったと思いました。
監督と親交があるという司会者の方の司会進行や映画の補足説明(なぜ実際の雪風で船員たちが丸刈りでなかったかなど)もとても良かったです。丸刈りの話や雪風の艦風については、公式サイト上で「雪風Q&A」みたいな形で出ていても良いかも?
作品については、雪風の各長と艦長が作戦会議をしたり全員で作戦を遂行したりしているシーンが改めてメチャクチャいいなあ!と感じました。「静」の艦長に対して「動」の各長。役者の皆さんのそれぞれの個性が活きて、生き生きとしたチームとなっていて、自由なのに一致団結している感じが良く出ていました(坊ちゃんとかふんどしというモチーフも良いです!笑)
ほかの役者さんたちも、とにかくみなさん素晴らしかったです。石丸幹二さん、中井貴一さん、益岡徹さん、田中麗奈さん、當真あみさん(ドラマ「さよならマエストロ」見てました!かわいらしい方です)、有村架純さん(優しい雰囲気が役柄にピッタリでした)、、、作品中でもっと見たい!と思いましたが、映画の長さは2時間ちょうどある、とのことで残念だけど仕方ないな、と思いました。
そして最後に。映画の中で一時期雪風の無線がやられて、他艦との交信が不能になる時がありました。ヒヤッとするシーンです。無線で(大事なメッセージは特に?) 暗号を使ってやりとりしていたのが、無線が壊れたら伝えたいことが何も伝わらない、、。無線でも暗号でも戦時の手紙でもなく、日常、会いたい人とともにいて、会話をすれば気持ちを伝えられる”普通がいな”と思いました。
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