劇場公開日 2025年8月15日

雪風 YUKIKAZE : インタビュー

2025年8月16日更新

竹野内豊×玉木宏×奥平大兼「戦争というものを2度と繰り返してはいけない」 映画「雪風」を通して若い世代へつなぐ平和のバトン

インタビューに応じた竹野内豊、玉木宏、奥平大兼
インタビューに応じた竹野内豊、玉木宏、奥平大兼

終戦から今年でちょうど80年。日に日に、戦争を実体験として知り、語ることができる世代が少なくなっている。それは、長くこの国が平和であることの証左と言えるが、同時に戦争の恐ろしさや悲惨さを次の世代に受け継いでいくことがより難しくなっていくことを意味する。

竹野内豊はいま、映画というメディアが、若い世代へと戦争の記憶を受け継いでいくために担う重要な役割についてこう語る。「歴史を知識として勉強するのではなく、映画の中で当時の人々の“心情”を一緒に体感することで、あの時代が“情景”として心にも届きやすく、より色濃く記憶に残せるかもしれません」。

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そんな思いを胸に、竹野内が主演として挑んだのが、映画「雪風 YUKIKAZE」(8月15日公開)である。日米開戦以降、多くの苛烈な戦いを生き抜き、どの戦場でも戦いのあと海に投げだされた仲間たちを救い、必ず日本に帰還し、“幸運艦”と呼ばれた駆逐艦と、そこに集う人々を描いた本作。艦長・寺澤に扮した竹野内、艦の全てを知り尽くした先任伍長・早瀬を演じた玉木宏、若き水雷員・井上役を担った奥平大兼がそれぞれの視点から本作の魅力、そしていま、この作品が公開されることの意義について語ってくれた。(取材・文/黒豆直樹 撮影/江藤海彦)


――様々な戦争を題材とした映画がこれまでも作られてきましたが、この「雪風 YUKIKAZE」ならではの魅力、この作品だからこそ観る者に伝えられるメッセージはどのような部分にあると思いますか?

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竹野内:数々の戦争作品がある中で、この「雪風 YUKIKAZE」の脚本を最初に読んだとき、寺澤が重んじていた武士道というものが、作品全体を通じて描かれているのを感じました。自由というものがなかったあの時代において、どんなことがあっても最前線で戦い続けるということを美徳とするのではなく、必ず生きて帰る、生きて還す――命を繋げていくという、根底にあるテーマは、他の作品にはあまりないものだと思いました。軍人が勇敢に戦っていくという戦争映画は数多くありますが、なかなかこういう視点で描かれた戦争映画というのはないような気がして、まさにいま、戦後80年を迎えたこのタイミングで世に送り出すというのは非常に大きな意味があるんじゃないかと思いました。

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玉木:この雪風という駆逐艦に焦点を当てた作品というのは当然、他にはないわけで、テーマにもある「生きて帰る、生きて還す」という、戦争ということが背景にありつつも、現代にも通ずるメッセージがしっかりと込められた作品になっていると思いました。竹野内さんもおっしゃられたように、戦争に行って、命を落とすことが美学ではなくて、ひとりの人間として「生きる」ということに焦点を当てているということが、この作品の最大のメッセージかなと思います。

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奥平:僕も戦争映画というものに対して、戦闘であったりとか、儚く命が散っていく姿であったりというイメージが強かったんですけど、今回の映画は「生きて帰る、生きて還す」という“命をつなぐ艦”という、違った視点で描かれているというのが魅力であり、伝えたいところでもあると思います。

――竹野内さんが演じた寺澤は、艦長として、ひとりでも多くの兵士たちの命を救うべく尽力しますが、一方で死んでいった同期の仲間たちの写真をたびたび見つめ、どこか死に場所を求めているような描写も見られます。演じる上で、寺澤の死生観やリーダーとしての在り方など、どんなことを意識されたんでしょうか?

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竹野内:正直、寺澤がいまは亡き同期の戦友たちの写真を見ながら、ちょっとそっち側に引っ張られていくような部分は、演じる上で唯一、共感できなかったところでした。残してきた家族もいるわけで、そこはどういうふうに演じたらいいのか……? 非常に悩んだ部分ではありました。

でも、艦長たる立場で、何があろうとも乗員たちの前で一喜一憂してはいけないという信念を持ちつつも、やはりひとりの人間として、大切に思っていた仲間たちが、次々といなくなっていくという光景に、つい胸の内に秘めていた人間としての弱さが、ひとりで過ごす艦長室の中で、ついこぼれてしまう瞬間というのがあるのかなと思いながら、少し複雑な気持ちを抱きつつ、演じていました。

――80年前のあの時代に生きて、祖国のために戦った軍人を演じられたことで、当時の人々と現代を生きる我々との価値観の違いなどを感じた部分はありましたか?

奥平:こういう言い方をすると語弊があるかもしれませんが、これまでの自分の21年の人生で、生きていることが、どこかで“ひまつぶし”のようなものだと感じているところがあったんですよね。人間って極言すれば、ごはんを食べて寝るだけで生きてはいけるわけじゃないですか。幸運なことに、僕は俳優という仕事に出会えて、楽しく――僕の感覚で言うところの“ひまつぶし”ができていたんですけど。この作品に参加して、当時の人たちのことを考えた時、理不尽なこと、やりたくないことをやらざるを得なかったこともあったでしょうけど、駆逐艦の乗組員として日々の中に小さな幸福を見出し、喜びを感じる瞬間に接した時に、ものすごく残酷ではあるんですけど、人間らしさを感じたし、彼らの姿に美しさを感じました。

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自分の人生をふり返ってみて、そういう人間らしさとか、生への執着というのが当時の人たちよりも薄いなというのは感じて、それはある意味で、いまの世の中が幸せで平和だからこそ、そう思えるという点で、良いことなのかもしれませんが……。この映画を通して僕は、いろんなことに熱量をもって、本気で生きてみるというのは、人間として、すごくきれいなのかもしれないなと思いました。

玉木:80年という数字だけで見ると、すごく長い時間のように思えるのですが、昨年、僕の祖父が亡くなりまして――祖父は戦争に行って、しばらくシベリアに抑留されていたんですが、祖父が生きていた時代に思いを馳せると、やはりすごく近いところにあるんだと感じました。江戸時代とかになると遠すぎてわからないですが、祖父が青春を過ごした時代と考えると、たった80年しか経ってないのかなと思わされます。

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この80年の間に、すごくたくさんのものが増え、全然違う世の中になって、便利にはなってはいるんですけど、根底にある人間の気持ちというのはやっぱり何も変わってない気がします。戦争ということだけでなく、日本はいつ災害が起きるかわからない場所でもあるし、何かが起きた時に、まさに今回の映画のように手を差し伸べて、手助けをするというのはすごく必要なことだと思うので、その根底にある気持ちは絶対的に変わってはいないと思います。

竹野内:まさにいま玉木さんがおっしゃったことに共感する部分が大きいんですけど、人間というのはやはり、失敗を繰り返す生き物だと思います。でも、実際にあの当時を生き抜いた方々から、その体験を直接的に聞くということが、徐々にできなくなってきて、戦争というものに対するその現実味がどんどん薄れていくんですよね。

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戦争というものをもう2度と繰り返してはいけない――それを伝えてきてくださった方々がいて、今度は僕らがそのバトンを、この80年というこのタイミングで受け取る、そういう時期でもあると思います。今回、試写でこの映画を拝見した時に改めて、みんなで同じ方向を向いて、どんなことがあろうと「生きて帰る、生きて還す」という強い信頼関係を持ち、仲間を大切にする姿を見た時、現代のほうが当時よりもはるかに満たされているはずなのに、どこか羨ましさを感じてしまったんですよね……。本当にいまこそ、特に若い世代の方々にこの映画を観てほしいという気持ちがすごくあって、当時の日本人の精神性の高さというものを体感してもらいたいと思います。

――意外にも竹野内さんと玉木さんは本作が初共演ということで、改めてこれまでお互いにどんな印象を持っていて、実際に共演されてどんなことを感じたのか教えてください。

竹野内:お会いするまでは、良い意味でものすごくストイックな方だとは思っていたんですけれど、いまおいくつですっけ(笑)?

玉木:45です(笑)。

竹野内:すごく落ち着かれていて。格闘家でもある(※ブラジリアン柔術の世界大会にも出場)ということは存じていたんですけれど、柔術の前にボクシングを15年間もやっていたというのを聞いて、それはびっくりしましたね。

本当にストイックな方だと思うんですけど、読み合わせの段階から玉木さんが作り出す空気感に、既にリーダーシップというか、先任伍長としての存在感が自然とあって、顔合わせ、本読みの時点でここまで空気感を作れる人がいるのかと。それは本当にすごいなと思いました。「みんなを引っ張っていく」という空気というか、乗組員たちの“兄貴”という感じの風格が全身にみなぎっていて、素晴らしいなと思いました。

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玉木:ずいぶん前、僕が20代の頃ですが、仕事ではなくプライベートで顔を合わせたことがありましたよね?

竹野内:ありましたね(笑)。

玉木:ちらっとだけお会いしたんですが、お仕事でご一緒させていただくのは今回が初めてで、でも周りから聞いていた印象と、実際にお会いして、ご一緒させていただいた印象が変わらないです。本当に物腰が柔らかくて穏やかで「どういう時に感情が乱れるんだろうか……?」と感じるような方でした。ご本人の柔らかい空気によって、現場もそういう雰囲気になりますし、そういう意味でも寺澤艦長とリンクする部分が多かったような気がしています。

――奥平さんは竹野内さん玉木さんとご一緒されていかがでしたか?

奥平:僕にとってはお2人とも子どもの頃から見ていた方々で……。

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玉木:それはそうだよね(笑)。

奥平:すいません僕、「のだめ」が大好きで、最初に玉木さんにお会いした瞬間は「うわっ!千秋先輩だ!」って思っちゃったんですけど(笑)。

玉木:ありがとうございます(笑)。

奥平:作品の中でも玉木さんが演じられた先任伍長というのは僕が演じた水雷員の井上にとってもすごく重要な存在で、まさに先ほど竹野内さんもおっしゃった艦の空気感を玉木さんがつくってくださったおかげで、水雷員チームのあの緊迫した感じも出せたなと感じています。お芝居でも2人の掛け合いのシーンも何回かありましたが、玉木さんの胸を借りてお芝居をさせていただいたなと感じていますし、安心してお芝居できました。

竹野内さんは、玉木さんもおっしゃったように、本当に柔らかい印象で、お芝居の中での直接的な会話こそ、そこまで多くはなかったですけど、物語が進むにつれて、やっぱり艦長の性格や雰囲気が、艦の空気にも出るのを感じたし、僕が言うのもおこがましいですが、竹野内さんが艦長を演じてくださったからこそ、雪風のあの空気を含めて、役を掴めた部分が大きかったなと思います。

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竹野内豊…ヘアメイク:勇見勝彦/スタイリスト:下田梨来
玉木宏…ヘアメイク:渡部幸也/スタイリスト:上野健太郎
奥平大兼…ヘアメイク:望月光/スタイリスト:伊藤省吾

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