「言い出せない悪」陪審員2番 movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
言い出せない悪
イーストウッド監督は物事を両面から考えさせる作品ばかりで好きだ。
本作もそう。
1年前の10月、前が見えないほどの豪雨の日に運転していて何かに当たった衝撃はあったが鹿に注意の標識もあり、何も見えないので鹿かも?と思った男が翌夏、陪審員に選ばれる。
タウン誌記者をしているが事件については何も知らずに参加した男。
家にはハイリスク妊婦の妻が待っていて本当はそばにいたい。
裁判について聞いてみると、それはもしや1年前、妻が双子出産予定日に流産したあの日、1人でバーに入った帰りに鹿に当たったかもしれないあの時か?と気づく。
被害者は鎖骨両方折れて頭蓋骨陥没するほどの現場写真に狼狽えて吐く男。
でも、男には飲酒運転の前歴と、妻の体調を最優先にしたい今と、子供が産まれ父親になる未来がある。
しかし、被害者の交際相手の元ヤンの人生がかかっている。第1級殺人なので、陪審員が有罪で一致すれば、おそらく死刑か終身刑。
裁判が進むたびに名乗り出るべきか揺れるが、妻子を守らねばならない未来を思うと、前歴の身でバーに入れば飲んでなくても飲酒運転轢き逃げとみなされ終身刑だろう。それはできない。
せめて陪審員によく考えさせようとする。
陪審員の中には、蓋を開けてみれば元シカゴ刑事の生花店おじいちゃんや一刻も早く帰りたい子持ちのおばちゃん、医師の卵など色々揃っていて、みんな検証にその気になり出すと、ひき逃げではという真実に迫ってきて、自分が追い詰められていく。
一方担当検事も、検事長になるため確実に有罪にする事に最初は躍起になっていたが、凶器も証拠もなく、勾留されている被害者の交際男性が本当に真犯人か確証が持てなくなっていく。
そこで、元シカゴ警察の陪審員が独自に調査したため陪審員から外された際に残した、修理歴がある車のリストをあたっていくと、男の妻に辿り着く。
家を訪ねて、夫婦の写真も後ろに飾ってある中で妊婦の妻と会話をするが、鹿をはねたのは違う道だと妻が答えるので、納得して家をあとにする。
いよいよ真犯人に気付くかと思ったが間一髪気付かず、判決は結局冤罪の交際男性が無期懲役。
判決直後、検事は車の持ち主の夫が陪審員2番だった事に漸く気付くが既に被告人は勾留されに連れ去られた後だった。
後味の悪い判決だが、無事検事長に上がり事なきを得たかに思えたものの。
出世祝いに届いた花に刺さる、宛名プレートには、検事の名前が。FAITH KILLBLUE。
アメリカの青は、民主党、憂鬱、陰湿、忠実などの意味を持つ。組織に忠実にのし上がったが事実を知りながら裁判結果に反映させずなんか晴れない心と真実を影に潜める陰湿をやっつけなければ!信頼という名前なんだから!という封印されそうだった正義感が飛び出してきたと一瞬でわかる、すごい名付けセンス。
ハイリスク妊婦な妻にも、1年前のような流産にならずに無事出産が訪れ、事実は伏せたまま子供との家族の人生が続くかに思われたが、ピンポーンと検事がやってきたところで映画は終わる。
実に後味悪く、クリントイーストウッド監督らしさ満載。
ただ、このあと、鹿をはねたと話していた別の場所にはいなかったという証拠が取れないと有罪にはできないのではと感じた。SUVの売却は決まった直後だが、現物があれば修理済でも何かわかるのか?
あの日あのバーに居合わせた証言はスタッフから取れても、立証は難しい気がした。
果たして男の人生はどうなってしまうのだろう?
モヤモヤするが、交際男性が大雨の中帰宅する被害者を放置したのと同じかそれ以上に、事実に気付きながら名乗り出ず、あの日あのバーにいたと気付かれたり再審にならないように最後の陪審員投票の日に欠席した故意の操作は罪深いだろう。陪審員の他のメンバーも違和感を感じていた。
世の中些細なことでも、真実とは違う内容で説明されていることなどごまんとある。
でもその結果、損する立場、得する立場がいるのかいないのか、よく考えることが、真実に気付く大事な習慣だったりする。
最近の選挙同様、誰かがよく考えようと言い出さないとなんとなく決まる流れは、日本人には多い。
アメリカでもそういうのあるんだなぁと見た。