「一人の青年の身に起こる事件《正義と良心の呵責》」陪審員2番 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
一人の青年の身に起こる事件《正義と良心の呵責》
10月下旬に全米で短期間・小規模で公開された
クリント・イーストウッド監督の最新作
「陪審員2番」が、12月20日から、
U-NEXTで配信が始まりました。
陪審員を題材にした法廷ミステリーです。
陪審員制度の問題点、
司法制度の盲点を考えさせられる良心作でした。
評決の有罪と無罪の間に、グレーゾーンの判決
(例えば、執行猶予や交通事故での禁固刑などがありますが、)
有罪でなければ、その反対は無罪しかないのか?
私個人としては、
この2択しかない狭さ、そして怖さを感じる映画でした。
《ストーリー》
陪審員に選ばれた青年(ニコラス・ホルト)か、
審議する事件の内容を聞いて顔色を変えます。
「審議する事件」
ある夜、バーで恋人と激しく言い争うカップルがいました。
怒ったガールフレンドは雷雨の中を徒歩で帰宅したのです。
翌朝、彼女は崖下の小川で、頭を砕かれた死体で見つかるのです。
そして言い争いをしていた男性が、殴って殺して捨てた罪で
逮捕されます。
ニコラス・ホルトには心当たりがあったのです。
その夜、問題のバーに立ち寄り、車で現場近くの道を帰り、
《鹿にぶつかった》との感触があり、車を修理に出していたのです。
興味深いことに陪審員の中には、J・K・シモンズ演じる元警官で
刑事だった男が含まれていました。
彼はすぐに【ひき逃げ事件】だと判断するのです。
J・K・シモンズは、修理工場をあたり、16件の当日後に修理された
車のリストを揃えてきます。
そのことが、陪審員が【捜査をしたりしてはならない】
この規則を破ったために彼は陪審員を外されます。
実に良く出来た脚本です。
陪審員2番であるニコラス・ホルトの中で、
真実を告げるべきという良心と、しかし自首したら妻を守り、
生まれてくる子供を育てられない・・・2つの葛藤がせめぎ合います。
彼の保身と狡猾な面も、徐々に明らかになってきます。
人間の弱さや保身が浮き彫りになります。
アルコール依存症でグループセラピーを受けて4年経つこと。
飲酒運転の微罪があること。
事故当日には妻が最初の双子を流産した直後だったこと。
ラストの展開は半ば予期したこととは言え、辛いものがありした。
正義は成されるのだとの思いと、被害者に落ち度はなかったのか?
などと考えさせられて複雑な思いを抱きました。
それにしても一人の人間の終身刑のような重い刑が
決まるもしれない評決が、
陪審員の下す「有罪」で、いとも簡単に決まってしまう事。
陪審員の多くはさっさと役目を片付けて普段の生活に戻る・・・
その事で頭の中は一杯です。
状況証拠と怪しい目撃証言に検死医の簡単な所見のみで、
有罪が決まるとしたら、本当に恐ろしい。
いち早くクリント・イーストウッド監督の93歳での
最新監督作品を配信で観る事が叶い感謝します。
地方在住者や名作座が遠いなどの場合もあります。
近年は真面目で娯楽性の薄い作品は劇場公開が厳しいようです。
悲しい事ですが、前向きにとらえて、観る機会に恵まれて
本当に嬉しく思います。
琥珀糖さん、共感ありがとうございます。本作のような深みのある作品が劇場で観たいですよね。クリント・イーストウッド監督作の中でも、一二を争うほど私としてはフェイバリット作となりました。
おはようございます。本作は秀逸な社会派法廷サスペンスで、尚且つイーストウッドの確かな演出力、役者陣の一級の演技力と本年度公開された中で上位に位置する出来栄えだと思います。この作品がこのような扱いを受けてしまう今の映画業界に暗澹たる思いがします。