「あべこべ世界遊びの功罪と、後半の未達」機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning 映画読みさんの映画レビュー(感想・評価)
あべこべ世界遊びの功罪と、後半の未達
宇宙世紀はフル視聴、それ以外もほぼ視聴で、どちらも楽しめるガンダムファンです。
そういう下地を持った者の感想になります。
先にざっくり感想をまとめると
・一年戦争ファンだけが大爆笑できて、それ以外の人は楽しみ方がわからない前半
・一年戦争ファンには特に、それ以外にも訴求の弱そうな後半
が81分でまとめて出てくる映画、でした。
以下、前半と後半、それぞれについての感想です。
------ビギニング(前半)について------
ギャグ漫画でお馴染みの「性格や能力が真逆! 反転あべこべ世界!」系のネタです。
一年戦争(1stガンダム)を舞台に、性格や能力が真逆ならどうなるのか見てみよう! という、肩の力の抜けたコメディ同人誌・同人アニメ的なエンタメでした。
・あのシャアが最初から優秀
・ジーンが出しゃばらず居残りしてる
・デニムが激昂せず冷静にコメンテーターしてる
・原作の台詞や画角を、立場を入れ替えてほぼそのまま再現ラッシュ
・パオロ艦長が冒頭で死ぬ←冒頭では瀕死でした
・ガルマが生きている←特攻して死にます
・さっさとビグザムを量産してぶつけてる←量産の暁には貴様らなぞ…とたられば論でした
・シャリアが若々しくて板挟みから脱出←ひどく老けていて板挟みで具合悪そうでした
・キシリアが「最後まで逃げない」宣言←真っ先に逃げていました
・マ・クベが「現実のために戦っている」←芸術のために戦っていました
・シャアがビットを動かせる←動かせませんでした。有線ビーム砲ですら自信なし
・セイラさんのMSがちゃんと強い←ガンダムがお姉さん座りになるほど弱かったです
・ワッケインが生き残る←死亡します
・ブラウブロ&ガンダムの最強タッグはサンダーボルトのパロディ
・終わりのシャリア独白はIGLOO1ラストのオリヴァー・マイ独白のパロディ
……
などなど、一年戦争ファンだと噴き出すのをこらえたくなるような悪ノリ祭りです。
本作でのシャアは最初から優秀で、彼がエースかつリーダーとして何もかもうまく運んでいくのを淡々と見る展開ですが、つまりこれは「原作ではシャアは超ポンコツだった」のコントめいた強調に他なりません。一方、原作で優秀すぎたアムロとララァは「存在すらしていない」ようです。あまりにも優秀すぎた二人は、この能力反転あべこべ世界では「存在を許されず、消失している」……というブラックジョークが、超優秀になっているシャアとの対比で抱腹絶倒。
「もしアムロがいなかったらどうなったか? if」の話という可能性も少しよぎりましたが、シャアはサイド7に入る前から優秀さを出しているので、それは筋違いでしょう。シャアはサイド7に入る前に、なんだか直観を得たというような一言を言っていますし。
私は古参なので全てのネタが手に取るようにわかりましたが、話や発想が上質だとは思いません。ドラゴンボールのファンが『転生したらヤムチャだった件』を見た時のような、「あははー、楽しい同人誌だなー」という、程度の低い笑いを自覚した楽しみを覚えました。まさにお祭りイベントの賑やかしOPムービーならギリギリ可、という具合です。庵野さんの出世作となったDAICON 3のオープニング・オマージュ作品のような。
反転あべこべ世界ネタは「元ネタを知らないと何も面白くない」宿命にあります。なので、もし1stを未視聴とか、ゲーム等で知っていても原作は観てないとか、そもそもガンダムは宇宙世紀もの自体全然知らない…とかだと、「淡々とシャアが活躍するアニメ」「どれが重要人物かもわからないアニメ(全部が新キャラに見え、全部理解しようと頑張るも、全部流されていってしまう意味不明感)」などの印象になり、楽しめないのは仕方ないと思います。確信的にそういう構造なので「なんだ、そうだったのか、内輪ノリの置いてけぼりアニメじゃないか」という批判が出るのは仕方が無いでしょう。その不満や批判は正当なもので、それに批判で返すようなみっともないことを古参はしない方がいいかな、と思います。
ビギニングは、そういうものでした。
------本編(後半)について------
そしてビギニングの結末から5年が経過し、宇宙世紀0085年。
話的には地続きですが、絵柄もノリもがらっと変えて続きます。
が、こっちは上のような古参へに目配せするテンションから外れ(そのことは非難されるべきではありません)、ちょっと同一世界観と言えるのか際どいほどに軽いノリになっています。とりあえず、一年戦争のリアリティラインを受け止めてきた古参は困惑する内容。
ではここから一気に非古参向け、新規ファン獲得狙いか? ……というと、たぶんそうしたかったのだろうけど、正直「夢中にさせる」品質、面白さの総量が足りていない感じです。
今の10代~20代が好きなプロセカ~カゲプロのノリをこんな感じかなと取り入れ、たぶん作っている途中でサイバーパンク・エッジランナーズに憧れてしまい真似するもうまくいかず、水星の魔女を横目にシスターフッドを百合と騒いでもらうことも意識して、ビルドファイターズっぽくしろと上意もあったのか、「視聴者にどこで吠えて欲しいのか」をまとめきれないまま出てしまっている印象。
オタク専用の前半を取り除いて考えても、後半これだけの鬼ヅモと作品時間を使って「バチクソ推せる箇所」が見えないまま終了となるのは、単純に脚本やキャラがダメだからでしょう。
とても強い動画クオリティ、星街すいせいの歌、米津玄師の歌、一年戦争ifジオン勝利後をやっていい権利、と強ヅモを超えた鬼ヅモをしておいて、この「なんかこの先何を推せばいいのか定まらない感じで終わった」のはちょっとひどい。ツモの強さはマーケ系プロデューサーの成果なのでそのPはすごいのですが、それで作ったものがこれなのはクリエイティブ系プロデューサーの未熟という感じです。
---雑感---
これは妄想レベルですが、最初に本編(後半)が出来て、それを見て「やばい、完全にスルーされて終わるやつだ」とPレイヤーが危機感を抱き、庵野氏になんとかしてくれと頼んで前半を足してもらった。庵野氏は「この惨状からせめて『賛否両論』に持ち込むには…」と原作のシャリア・ブルみたいにお腹痛そうに苦しみ、「じゃあもうあべこべパロディで! バカ要素を足すのでいきましょう! 古参と新参がぶつかればうやむやになるかもね! 後は知らんよ!?」と頑張った…もしかしあら、後半もかなり作っておいた展開を削って圧縮した(宇宙に消えたマチュがいきなり学校に通っててすでにジークアクスは預けてる所のつなぎとか)……のではないかと思います。
というのも、スタッフクレジットの脚本表記が、五十音順に反して庵野氏が2番目だったからです。↑のようなときは、そういう記載順によくなります。
なお、あべこべパロディ自体は「映像で見せてくれたこと」に感謝していますが、斬新とは思いません。というのも、ホビージャパン系列の読者参加ゲームでビギニング(前半)の流れは「みんなで作った」ので。ギレンの野望よりもそっちが元ネタな気がします。
シャアがガンダムを奪取し赤く塗り、重MA量産計画が通り、連邦はグラナダ攻め、ジオンの勝利…むしろ「とても懐かしく感じた」ぐらいでした。あの頃のガノタにはもはや共通文化ですよね。
ただ一点、ブラウ・ブロ&ガンダムがタッグを組んで無双はちょっとモヤっとしました。
というのも、それは今まさにクライマックスを迎えている『機動戦士ガンダム サンダーボルト』がブラウ・ブロを再解釈し、3年ほど前に発明的に描ききったものだからです。
その匂いを混ぜられると、同じ「一年戦争その後(0080年~)」を解釈の上で見事な一本の物語として丹念に描いている大傑作・機動戦士ガンダムサンダーボルトの下位互換という視点が出てきてしまいますし、許諾を取っているのならいいですが、もし知名度の差を使ってこの作品の成果のようにするつもりなら、それは嫌な感じがします。
---総評---
超古参……前半は楽しめる、後半は相当苦しい
それ以外……前半は楽しめない、後半もけっこう微妙
という、超古参もそれ以外も、それぞれの理由で50点満点から採点が始まってしまうような食い合わせの悪さ、伸びきらなさを感じる1作目でした。もちろん、世の他の映画やコンテンツは100点満点で皆受け止められる中で、です。
付け足しの緊急策のように思える前半をあえて記憶から消して考えても、やはり後半の「尺のわりに吠えや燃えや萌えが見当たらない、雰囲気アニメ段階で1作目終了」なのが大きく懸念点という気がします。外見はともかく、マチュ・ニャアン・シュウジ、どれも感情移入したり応援したくなったりする所まで来ていません。戦勝国ジオンのパイロットやクルーたち、難民ジャンク屋たちもそう。ペラい印象で出てきた全員が、魅力があるわけでもなくペラさを時間いっぱい証明して終わってしまった感じ。本作が吠えか燃えか萌えなのか、みんな確信を持てないまま体験は終了して、冷却期間に入ってしまいました。
この本編(後半)は、もし大筋を変えられずともマチュとシュウジの魅力と絆形勢を描ききり、二人が「マブ」になる所までに絞って全力で書いてくれた方が良かったように思います。マブって言葉は、運命ドリブンの脚本ではなくてマブダチの実感を受け取らせて初めて響く言葉です。(例えそれが、現代の若者にとって夢想的な憧れとして降ってくるものだとしても、です)
なので、例え映像的に楽に引きを作れるとしても、効果的に消化しきれないニャアンには尺を割かず、ジャンク屋は存在自体もっと減らしていい。「キャラを出すなら、魅力的にする。魅力的にできないなら、(まだ、も含めて)キャラを出さない」は、秒単位で引き込み速度が予後に関わる序盤は神経を尖らせてほしい。というか、昨年の同サンライズ『奪還のロゼ』はそんな感じのことをちゃんとやりきっていましたよね。同じサンライズのロボットアニメ・劇場先行公開ものとして比べると、作り手たちの物語造詣に差があると感じました。
以上になります。
私は、今後続編の劇場公開があったとしても、地上派や配信まで待つと思います。