「どちらの悪魔にも共感はできないが、憐れなのは乗客の方なのかもしれません」シンパシー・フォー・ザ・デビル Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
どちらの悪魔にも共感はできないが、憐れなのは乗客の方なのかもしれません
2025.3.3 字幕 TOHOシネマズ二条
2023年のアメリカ映画(90分、G)
出産間近の妻のもとに急ぐ夫が見知らぬ男につき回される様子を描いたスリラー映画
監督はユヴァル・アドラー
脚本はルーク・パラダイス
原題は『Sympathy For The Devil』で、直訳すると「悪魔への共感」という意味
物語の舞台は、アメリカのネバダ州ラスベガス
妻(Racheal Boyd、写真)の出産を控えている夫のデイビッド(ジョエル・キナマン)は、息子(オリヴァー・マッカラム)を妻の母(ナンシー・グッド)に預けて病院を目指すことになった
だが、病院の駐車場に着いたところで、不審な男(ニコラス・ケイジ)が車に乗り込んで来て、銃を突きつけて「車を出せ」と言い出す
「妻の出産が」と言うものの、男はデイビッドの言葉を無視して、高速に乗るように指示を出した
燃料がわずかだと言うことで最寄りのガソスタに寄るものの、近くの客にSOSを出しても気づかれない
仕方なく、そのまま車を走らせたデイビッドはパトカーを確認し、わざとスピードを上げて、取り締まられるように促した
物語は、欲求不明な男の言われるがままに従うデイビッドを描き、男は警官ですら躊躇なく撃ち殺してしまう
どうやら男はデイビッドを誰かと勘違いしているようだった
彼はマフィアの会計士として働いていた過去があり、その際にデイビッドに妻子を殺されたと主張している
さらに、男は自らをエドワード・G・ロビンソンと名乗り、デイビッドのことを「ジェームズ・レイヴン」だと言う
ジェームズはマフィアの何でも屋のような存在で、別の会計士の不正に際して処分を行った際に、エドワードの妻がそれを目撃してしまった、と言う
そして、妻は精神的に不調をきたし、それによって組織がヤバい状態になった
危険を察知したエドワードは妻子ともに逃げようとしたが、妻子はジェームズに殺されていた、というのである
映画は、このエドワードなる人物が言っていることが本当なのかを追っていく流れになっていて、ジェームズ=デイビッドなのかを確認することが目的となっている
一応は、デイビッドの自白によって確定されたように思えるのだが、実際には逃げるために話を合わしただけとも考えられる
ラストでは、「自分はデイビッド・チェンバレン」と何度も呟くシーンがあり、これが「偽名だから」なのか、執拗に男に言われたために混乱しているのかは微妙なラインになっていると感じた
面白いかどうかは何とも言えないが、ニコラス・ケイジが好きな人なら楽しめる内容で、要は「どっちが本当の悪魔なのか」というものを追いかける映画となっている
デイビッド自身にもおかしなことがたくさんあって、救急病院の駐車場に着いたのに入らずに出ようとしているし、彼の息子が作ったアクセサリーのSDは両親のイニシャルではない
Dはデイビッドのことで、Sは妻のことだと言うが、妊娠している女性はマギーという名前だった
なので、Sは前妻のことであり、息子も前妻との子どもであり、妻の母はマギーの母ではないことになる
このあたりの答え合わせはされていないのだが、現在妊娠している女性が妻であるかは何とも言えないように思えた
いずれにせよ、深く考察するタイプの映画ではなく、語り手はどっちも嘘つきというところがあるので、どの話が本当だったのかはわからない
だが、エドワードと名乗る男は「相手が正しいことを言っているときは許す」という判断基準があったので、デイビッドがジェームズであることは間違いないのだと思う
ジェームズがエドワードの妻子を殺した理由が真実かはわからないが、おそらくは想像を超えるような意図的な殺人であった可能性が高い
そのあたりも含めて、どちらの悪魔に憐れみを感じるかを問いかけている作品なのかもしれません