「たとえIQが高くとも」アマチュア レントさんの映画レビュー(感想・評価)
たとえIQが高くとも
愛する人の命が奪われテロリストに復讐するためにCIAのデスクワーカーの主人公がスパイになるという物語。
原作自体が40年以上も前に書かれたスパイ小説で、もはや手垢のついたようなネタであり記憶の新しいところでは「アメリカンアサシン」が思い浮かぶ。かの作品も娯楽作品としてはそこそこ楽しめたが、また同じようなネタかとあまり期待しないで鑑賞したら意外によくできた作品だった。
CIAで暗号解読の専門家として勤めていたヘラーは妻の復讐のために殺しの訓練を受けてテロリストを追うが、逆にテロリストと癒着した直属の上司からは命を狙われ、古巣であるCIAとの頭脳戦を繰り広げる。
特に前半、上司を脅して工作員の訓練を受けさせるくだり。厳重な警備体制の下では情報を外部に流失させることは不可能にも拘らず上司を脅すヘラー。ジュークボックスに仕込まれたCDは囮であり、情報の暴露という脅し自体が訓練や偽造パスポートを作らせるための時間稼ぎだったという辺りは手が込んでいて面白かった。
またYouTube動画を見て即興でピッキングをしたり、大量に花を買い込み肺炎を患う相手に花粉で拷問したり、顔認識システムを逆手に取って攪乱作戦に出たりと主人公の持つスキルやあくまでも工作員としては素人だというキャラクターを生かしたいろんな工夫がなされていて最後まで飽きずに楽しめた。
また同じく伴侶を失った情報提供者の女性との交流や教官でもあり刺客でもあるヘンダーソンとの関係性など人間ドラマもさりげなくうまく描かれていた。
アメリカンアサシンのようなド派手なアクションを楽しむような映画ではなく人間ドラマとして見る方が楽しめる作品になっている。
見る前はクレイグ版ボンドの若きQがスパイ活動するような007のスピンオフ的な作品みたいなのをイメージしていたけど、どちらかというと主人公のヘラーはスノーデンのイメージに近い。スノーデンも自分の信念から身の危険も顧みず国を揺るがすほどの情報を公の下にさらした。ヘラーも復讐がまず先立ってはいたものの上司の違法行為を暴露したという結果になってる点は似ている気がした。
映画ドットコムの解説記事によれば主人公のヘラーはCIAで最も優秀な頭脳を持つ人間だという。本作はいわゆるジェームズボンドのようなあまり物事を深く考えないキャラクターによるアクション映画ではなく、一応頭脳明晰の人間がボンドまがいのことをするという触れ込みの作品。
ただ、どんなに頭脳明晰であっても妻の復讐のために犯人であるテロリストを殺していくという。結局人間は感情のままに行動するのか、せっかく優秀な頭脳を授かっても憎しみに囚われてスキルをそんなことにしか生かせないのかと少々残念な気もしながらの鑑賞だったのでラストで黒幕のテロリストを殺さない選択をしたのはよかった。
どうせなら殺せない暗殺者というキャラを徹底してほしかった気もする。主人公は黒幕を探し出すために合計三人殺してしまうけど、すべてが脅しのためで死なせたのは想定外だったみたいな。二番目のプールの場面も相手ともみあいになりスィッチを入れてしまった感じにして不可抗力で死なせてしまったという風にすれば結末にもより説得力あったかも。
クライマックスでヘラーは憎きテロリストから言われる。目的のために君の妻を殺した。君も私を見つけ出すために三人を殺した。同じではないかと。その言葉にヘラーは返す言葉もない。対テロ戦争の名のもとにあらゆる人権蹂躙を行い、他国への侵略戦争の口実にしてきたアメリカへの皮肉が効いた場面だった。
自分で引き金を引けない、自分の手を汚さず間接的に相手を殺していくヘラーの姿自体も、かつてCIAがアメリカの都合のいいように傀儡国家を作り上げるため、反政府勢力に手を貸してクーデターを引き起こしてきたことを暗に皮肉っているのかとも思えた。
コメントありがとうございます!確かに、アマチュアがバリバリのプロになってしまいますね。でもどんなに頑張っても拳銃で人を殺す人にはなれない気がします
共感&コメントありがとうございます。
手を汚すのは末端ですから、上層部は勝手に高揚してるだけなんでしょうね。
ヘンダーソンvs信頼出来る者との闘いが突然始まるのが、ゴジラとラドンみたいでちょっと笑えました。