劇場公開日 2025年3月22日

「進化する金子雅和監督作品の自然描写」光る川 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0進化する金子雅和監督作品の自然描写

2025年3月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

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さまざまな表情を見せる渓流と山深くの緑を美麗にとらえた映像と、耳に染みわたるせせらぎや滝の音が作品世界への没入へいざない、大自然に溶け込んだかのような癒しを覚える。川は自分の映画に欠かせないモチーフと明言する金子雅和監督が、岐阜出身の作家・松田悠八の小説「長良川 スタンドバイミー一九五〇」を映画化する企画のメガホンを託されたのは、たぐりよせた運と言うべきか、人知を超えた縁と言うべきか。金子監督作品に参加してきた撮影監督・山田達也、音響・黄永昌らスタッフとのイメージの共有と連携も良好だったのだろう。川の描写と実在感が過去作からさらに進化した印象だ。

「光る川」という題は小説の第2章からとられたものの、金子監督は原作の物語をエッセンスとして残すにとどまり、当地の民話や伝承も取り入れた。さらに過去の長編2作の物語要素も加えている。具体的には、「アルビノの木」での聖なる地から俗世の里へと流れる川の存在、「リング・ワンダリング」での現世と過去を行き来する幻想譚が、“まるで接ぎ木”されたかのようにこの長編第3作でも反復されている。

金子監督作で重用されてきた山田キヌヲ、「リング・ワンダリング」でもヒロインの父親役だった安田顕のほか、華村あすか、葵揚、子役の有山実俊も作品の世界に馴染んでいる。

悲恋の痛みや奇譚の驚きに伴うカタルシスが、渓流の美麗な画と音との相乗効果を生んでいるように感じた。比較的少なめの予算相応で派手さはないものの、日本古来の自然観を継承しつつ新たな感性と映像表現で刷新しようとする意志を感じた。

高森 郁哉