劇場公開日 2025年2月21日

「情熱の力!」ら・かんぱねら ひつじさんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0情熱の力!

2025年7月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

驚く

佐賀県のとある町で海苔漁師をしている主人公、徳田時生が、ちょっとしたきっかけからピアノ曲「ラ・カンパネラ」を弾きたい! という強烈な衝動に動かされ、最終的には弾けるようになる、という物語。
大きな物語はそれだけ。
そこに家族の物語や「夢」の話を絡めて一つの映画に仕上げてある。
しかし何といってもこの「情熱」こそが本作の主題であり、すべてだといっても過言ではない。

この情熱、ほかに何にたとえればよいのだろう?
この曲が弾けるようになりたい! その衝動に浮かされた時生の行動は、常軌を逸するレベルに達している。一時は奥さんや息子さんからも「そんなことにうつつを抜かさず仕事に専念して」と言われてしまうほど。
こんな強い情熱、ほかにどこかで見たことがないか?
例えば大谷翔平の野球に対する情熱。
例えば『リトルダンサー』のビリーエリオットのバレエに対する情熱。
例えば『ピアノの森』の一ノ瀬海のピアノに対する情熱。
そうせざるを得ない。どうしてもやらないわけにはいかない。
そんな類の感情だ。
そして、その情熱は周りの人を動かす。
必ず誰かが応援してくれる。その情熱が何かを生み出す。
そんな物語だ。

映画を観た後、この物語のモデルとなった徳永義昭氏の実際の演奏をyoutubeで鑑賞した。
スゴい! とんでもない演奏だ。
映画主演の伊原剛志の演奏も、特訓の成果として十分に素晴らしいと思ったが、実物はもっとスゴかった。とんでもない技巧。独学でここまでとは。素晴らしい。
映画化されるのも納得の演奏。

個人的には、有明海の出口に位置する長崎県の田舎町の出身の僕としては、有明海の海苔漁師の物語が妙に胸に響いた。
単純に田舎の方便が近いというだけで、なんだか田舎の風景が頭に浮かんでしまったし、後継ぎ問題などのモチーフも僕の気持ちをほんの少し揺さぶった。
僕自身は田舎に帰るつもりは毛頭ないし、そのあたりの心理的な葛藤はとうの昔に吹っ切っているのだが、社会問題としての話はまた別。
大きな物語としては、今後の日本社会にとって絶対に考えなければならない問題だと思うし、それに対する一つの問題提起を行っている映画だ。

とはいえ、映画の主眼はそこにはない。後継ぎ問題はあくまでモチーフの一つ。
テーマは「情熱」。しかも50歳を過ぎたオヤジの情熱。
そこに夢があるのなら、それは同じくらいの年齢に達した僕らの希望となる。
全員が叶えられる夢では決してないけれど、オヤジだって夢を見てもいいじゃないか。
そんな思いを僕は受け取った。

もう一つ。
音楽やダンスなどを主題にした映画で繰り返されるテーマについて。
「あなたはあなたにしか弾けない『ら・かんぱねら』を弾きなさい」。
時生が、ピアノを譲り受けた高名な先生から言われる言葉である。
演奏や演舞・演技では、必ず「個性」が重視される。
型どおり、楽譜通りではなく、「自分の」演奏を。繰り返しこの類の物語で唱えられるテーマだ。
じゃあ、「自分の」演奏とは何か?
この答えはたいてい明示されない。この映画でも、示されたのは一つのヒントだけ。
「あなたは誰にピアノを聴いてもらいたいの?」
その人への思いを乗せてピアノを弾く。ダンスを踊る。ボールを打つ。
そういうことなのだろうか?
僕自身の生き方に引き付けて考えるとき、このテーマはこれからもずっと考え続けなければならない大きな課題になると思う。

ひつじさん
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