「いい映画だと思います 鑑賞後感もいいし だけどちょっぴり感じるモノ足りなさ」風のマジム Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)
いい映画だと思います 鑑賞後感もいいし だけどちょっぴり感じるモノ足りなさ
例えばこれを沖縄のどっかのTV局の「〇〇テレビ開局○周年記念ドラマスペシャル」として観たとしましょう。キー局だけでなく系列各局からの応援もあり、脚本はいいし、キャストもそれぞれハマリ役、爽やかに仕上がっていて、ほとんどの視聴者が十分に満足して眠りにつくことでしょう。でも、映画館でおカネを払って観る(たとえシニア料金でも。さらに言うとメンバーシップ特典かなんかで無料であったとしてもーーだって映画館まで出向いて暗いところに閉じこもって大きなスクリーンで観るわけですからね)となると、うーん、ちょっとモノ足りないかなあ…… というのが私の偽らざる感想です。
まずは予定調和的でストーリーの先が読めてしまう件。まあ実話に基づいたサクセス•ストーリーなので致し方ない面もあるにせよ、マジム(演: 伊藤沙莉 かなりのハマリ役です)は最終プレゼンにはこんな手を使うだろうな、タイトルの「風のマジム」はこんな風に回収してくるだろうな、あたりは映画やTVドラマを見慣れている人なら、割と簡単に読めてしまうと思います。最終プレゼンのあの方法に関しては、そもそも企画しているのがアルコール飲料なので、第一次のプレゼンから「こんなものをつくりたいです」とまずはカリブの小さな島のラム酒を試飲させるのが常道でしょ、それは村人たちの寄り合いにおいてもしかり、今さら何をやってるの、と言いたくもなりますが、ウルトラマンがカラータイマーがピコンピコンと鳴り始めてから、腕を十字に組んで必殺のスペシウム光線を繰り出してくるのと同様、物語が佳境に入ってから切り札を出してくるのが作劇術の基本であるということで、いささかベタな作劇ではありますが、許してあげましょう。
私がモノ足りなさを感じているのは以下の2点です。
まずはマジムがラム酒の醸造所を作ろうとする サトウキビの産地の南大東島の件です。残念ながら、私は彼の地に行った経験はありませんが、地図で見ると、南大東島は、鹿児島沖合の種子島、屋久島あたりから始まって奄美大島やら沖縄本島やらをへて、宮古島、石垣島、西表島等の台湾沖合の島々に至る、いわゆる南西諸島からは少しばかり東に離れて位置しています。沖縄本島から東に360kmほど離れているそうで、いわば「絶海の孤島」です(近くに北大東島があるので正確に言うと「絶海の孤島群」になりますが)。島なので飛行機か船を使って行くことになりますが、マジムたちのいる那覇(たぶん)からは飛行機なら1時間ぐらいのフライトになりそうです。人口が千人ちょっとの島で観光客もたぶん年間数千人程度でしょうから、飛行機の便数もそんなにあるとは思えません。マジムは苦労しながら島に通っていたはずなのですが、機上のマジムの画も飛行機の離着陸のシーンも南大東空港の様子を撮った画も出てきません。空から撮った島の海岸線とか、一面に広がるサトウキビ畑とか、その傍らにある製糖工場の様子とかもスクリーン上で見たかったなと思うのですが、これらもまるで出てきません。まあ予算を始めとする諸々の大人の事情で、実は南大東島までロケに出向いてないのかもしれませんが。
次にマジムが企画して製造するに至ったラム酒の件。これの正体がよくわかりません。生産工程をまったく見せてくれませんし、実際に醸造して新たなラム酒を生み出すにあたっての苦労話も語られることはありません。マジムのおばあ(演: 高畑淳子 お見事なドハマリ具合。この映画のMVPだと思います)はゆし豆腐を製造•販売しているんですけど、そちらの工程は断片的ではありますが、おばあの仕事場を映すたびに見せてくれています。また、おばあはなかなかの職人気質で、仮にも人さまの口に入るモノをつくるのだよ、とモノ作りの厳しさをマジムに説いたりもします。この物語はマジムのサクセス•ストーリーであると同時にモノ作りについてのお話だと思っていたのですが、肝心のラム酒造りに関してはちょっと情報不足で残念でした。だってサトウキビがどうやってお酒になるのか、やっぱり見てみたくて。製糖の際の余り汁で造るのとサトウキビから直接搾るのとふた通りの方法がある、我々は後者の方法をとる、みたいな説明セリフがあったと思うのですが、その工程ぐらいはちゃんと見せてよ、と。また、新しいラム酒の開発をお願いする醸造家に滝藤賢一という人を得た感じのキャストを起用しているので、彼の口からモノ作りの苦労話や、気候や土壌の違いからサトウキビの質も違ってくるでしょうから、カリブの小さな島のラム酒と太平洋の南大東島のラム酒の味わいの違いについてウンチクのひとくさりでも語らせてくれたら、酒好きとしては大いに納得したのですが。
ビジネスをしていると「現場現物主義」という言葉をよく耳にします。何事も「現場」と「現物」が大事だよというお話ですが、この映画では現場(南大東島)と現物(新しいラム酒)に関してちょっとツッコミ不足かなあと残念に思いました。でも、基本的には好きな映画なんですけどね。そんなに公開規模も拡げていないし、派手な宣伝も打ってるわけでもない、恐らくは低予算映画でしょうから、これなら十分満足としておけばよいものを、好きだからこそと、つい長々と書いてしまいました。
ということで、
「かりーっ!!」
共感ありがとうございます。
予定調和だらけ(実話なのに)ですが、アラはあるけど見心地のよさを楽しみました。私も酒飲みなんで、ラム酒がどう違うのか、ぜひ滝藤さんに解説してほしかったです。それと、おばあのお豆腐で一杯(いっぱい)やりたいです。じゅるるるる
共感ありがとうございます。
大東島に関しては北と南の移動に飛行機が使われたり、大島と沖縄の双方の特徴があったり、とか色々と膨らませそうだったですがね。最初、何故まじむが敵視みたいな感じになるのか?もちょっと分かり辛いですよね。南大東島に拘るんであれば、もう少し島民の中へ飛び込んでいく描写も要りそうですね。
全ては尺と製作費の事情なんですかね?
共感ありがとうございます。ご指摘の2点はまさにその通り!だと思います。
エンドロールをみた限り南大東島にもロケには行っているようなのですがキャストは入らずサトウキビ畑など一部の絵だけ撮ったみたいです。





