「しょうもない俺、それこそが俺だ」みんな笑え 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
しょうもない俺、それこそが俺だ
落語好きとしては観ておきたかった映画。ダメな人間を地で行く噺家の物語。蛙朝、文治、枝太郎、竹丸、陽子、、。芸協の面々が役者としてちょくちょく登場してくるのは得した気分。実際の噺家さんたちは、自らを落語しかできない人間なのでと卑下した言葉を言う人もいるが、ほんとにそうならあれほどの感動を得られない。まあ中にはそうでもなさそうな噺家もいて、主人公太紋もそんなひとり。だいたい、そんな噺家はネタが一本か二本しか持ってなくていつも高座では同じネタ。ネタというより漫談。煙草を吹かしに外に出て行く中年二人連れの気分はよく分かる。自分にもやはり苦手だったり、嫌悪する噺家はいるので、この時間はなかったことにする。自分は退出まではしないまでも、目を瞑り瞑想の時間にしているが。
太紋のような噺家は、互助会的な落語の世界にぶら下がっている奴だ。腹がたつ。ネタを磨こうともせず、収入の不足を本業の芸ではなく、単純労働で得ようとしている。逃げているとしか思えない。彼には落語は単に生活の糧を得るだけの労働でしかない。「人生って嫌なことばかりじゃないですか。そんな時笑えたら幸せじゃないですか?」と言われても他人事だ。
そんな彼が変わろうとする。実際どこまで変われただろう。だけど、煙草タイムを取ろうとした中年二人を振り向かせたのは確かだ。上手いかどうかはともかく、彼の変化が二人の足を止めたのだ。
しかし太紋、喋りが下手だなあと思ったら、落語監修が某師匠(名前は伏せましょう)。高座の姿を見て、似てるなあとは思っていたが、ほんとにそうだった。実際の某師匠も、たどたどしさはある。そこが味ではある。そこを狙って監修を依頼したのなら、キャスティングに関しては成功と言える。