「キャスティングの妙が光る噺家話」みんな笑え 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
キャスティングの妙が光る噺家話
過日、K's cinemaで上映されている本作を鑑賞するために、ネットでチケットを購入しました。ところが、うっかり『雨ニモマケズ』のチケットを間違えて買ってしまい、改めて慎重に購入し直した結果、無事に本作を鑑賞することができました。
落語好きとしては必修科目とも言える本作。物語は、父親であり師匠でもある初代・萬大亭勘太(渡辺哲)の名跡を継ぎ、二代目・萬大亭勘太となった斎藤太紋(野辺富三)を中心に展開されます。初代は人気・実力を兼ね備えた名噺家でしたが、高座でネタを忘れたことを機に引退し、息子に名を譲ります。現在は認知症を患い、自宅で静かに過ごしています。
一方、二代目は父の実力には遠く及ばず、寄席に上がっても常連客がタバコを吸いに立ってしまう始末。彼は初代と異なり新作派で、「夢のベストナイン対決」を得意ネタとしていますが、客の反応はイマイチどころか“イマサン”といったところです。
“親の七光り”として注目を浴びがちな二世ですが、落語の世界でも“二世議員”や“二世タレント”同様、ネガティブなイメージがつきまといます。歴史を振り返れば、五代目・古今亭志ん生の息子である十代目・金原亭馬生と三代目・古今亭志ん朝という稀有な親子も存在しますが、まあこれは特別な例なのでしょう。
本作の二代目・勘太=斎藤太紋は、“二世”の負の側面を煎じ詰めたような人物像であり、主演の野辺富三のキャスティングは、あまりにハマりすぎて怖いほどでした。あのフラのなさは、中々出せるものではないと思われます。
もう一人の主役は、なかなか芽が出ない女性漫才コンビ「レベチーズ」の濱本希子(辻凪子)。彼女は勉強のために訪れた寄席で二代目の「夢のベストナイン対決」を聞き、その内容をヒントに漫才のネタを考え始めます。こうして、二代目と希子の擬似師弟関係が生まれるのでした。
辻凪子の漫才は非常に巧みで、本職の芸人かと思うほどの出来栄えでした。特に後半、相方が入院し、一人二役でネタを演じる場面は、まるでナイツの実験漫才を彷彿とさせるもので、強く印象に残りました。
主演の野辺富三と辻凪子は今回初めて観ましたが、初代・萬大亭勘太役に渡辺哲、そして希子の母親でかつて二代目と交際していた濱本陽子役に片岡礼子が起用されており、その安定感が作品の土台をしっかりと支えていました。特に片岡礼子は、先日観た『嗤う蟲』でも素晴らしい演技を見せており、その魅力に再び惹き込まれてしまいました。
上映後には、先日観た『雨ニモマケズ』同様、監督らによる舞台挨拶がありました。K's cinemaは、今回で2回連続の訪問となりましたが、アットホームな雰囲気があり、制作者や出演者の話を直接聞く機会が多いなど、実に素敵な映画館だと感じました。
そんな訳で、本作の評価は ★3.4 といたします。